その星、輝きません!
 車のドアに寄りかかり、座り込んでいる彼女の前に立った。

 ゆっくり顔を上げた彼女は、まるで幽霊でも見たかのように表情を失った。

 俺は、彼女の前に腰を屈めた。彼女を抱き起そうとしたのだ。


「連絡くれれば良かっただけなのに…… こんなところまで来なくても……」

 彼女は、力なく言った。

 俺は、メッセージを見たとき、今すぐ会いたいと思って冷静になどなれなかった。彼女は違ったのだろう……

 少し胸の奥が、鈍く痛かった。彼女を抱き起すはずだった手が動かなくなってしまった。

 その時、すっと彼女の手が俺の頬に触れた。

 少し冷たい感覚が、頬から伝わって来る。


「だからって…… こんなに、疲れた顔して……」


 そう言ったかと思うと、彼女が体を起こした。

 彼女の顔が近づいたと同時に、唇にぬくもりを感じた。
 一瞬、何が起きたのか分からなかった。

 でも、この状況に間違いがないのなら、彼女は俺に……


 一瞬で、彼女が離れていく気配を感じた。

 もう、我慢なんて出来なかった。

 彼女の頭の後ろに手をまわすと、ぐっと自分の方に引き寄せた。そのまま、自分の唇を重ねた。

 彼女が、俺のもとに居ることを確認したかった。

 強く、何度も向き変えて、唇を重ねた。

 彼女の頬に触れると、濡れている感覚が伝わってきた。俺の事で、泣かせてしまったのかと思うと、たまらなく胸が締め付けれられる。

 だけど、そんなに俺の事を思っててくれたのかと思うと、正直嬉しかった。


 「好きなんだ……」

 そんな言葉しか出て来なかった……
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