その星、輝きません!
「色々とお世話になりました。今月で、バイトを辞めさせてもらう事にしました」

 良太が深々と頭を下げた。


「どうして?」

 そう言った彼は、特に驚いた様子もなかった。


「スポーツクラブに就職する事にした」

「えっ?」

 驚いて、良太を見た。でも、良太の顔はいつになく真剣で、凛々しく見えた。


「今、俺がやりたい事は、子供達やクラブの人とかかわって、一緒に元気な時間を楽しむ力になる事なんだ。正直、先の事は分からないけど、今、出来る事をやりたいんだ。姉ちゃん、ごめんな」

 謝りながらも、こんなに輝いている目を見せられたら、反対する言葉も出ない。


「そう…… 良太が決めたのなら、そうしなさい。でも、もう仕送りはしないからね」

 本当に、この子は私の元から離れ、自立して行こうとしているんだろう。自信を持って前に進めるよう、良太の背中を押すのが私に出来る事なのだと思った。

「ああ。了解!」

 相変わらず軽々しい返事に、本当に状況が分かっているのかと心配になるが、良太を信じるしかない。


「おっさん、じゃなくて社長。ここでバイトさせてもらったおかげで、気付けた事がたくさんあった。俺には、組織の中で働く事は向いていないみたいだ。この会社で、働く人達は凄いと思う。知らない世界が見られて良かった」


「そうか…… 頑張れよ。これからは、兄として、よろしく頼むよ」

 彼が右手を差し出した。良太も右手を差し出し、お互い手を握った。


「兄さん、姉ちゃんを頼みます。いくら手に負えなくても、返品できないからな」

「勿論。覚悟している」

「ちょっと、覚悟ってなによ!」

 彼の足を、ギュッと踏んだ。


「星那さんなら、きっと社長を上手くコントロールしてくれますよ。私もやっと肩の荷が下ります」

「荷が下りるってなんだよ?」

 彼が、山下さんに流し目を送った。


「何はともかく、良太くん就職おめでとうございます。社長、星那さん、ご結婚おめでとうございます。新しいスタートを切りますが、これからも皆で力を合わせて行きましょう」


 山下さんにうまくまとめられ、四人でしばらく笑い続けた。
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