fate
呼び出し音が3回ぐらいで途切れた。
『もしもし』
「あの、酔ってますよね?」
『ん~、ちょっとね~』
なんとなく、いつもより口調がゆっくりな気がする。
『来る?』
電話越しでも、耳元で聞こえる声に、
心臓が止まりそうなくらいのスピードで動いている。
「え…っと…」
『もう部屋は出たよね?
静かだから』
やっぱりバレてたか。
頭で考えるより先に、あたしの足はエレベーターへ向かっていた。
ここより2フロア上のボタンを押す。
ポーンという音がして、ドアが開いた。
それが合図のように、物凄い緊張感が全身を包んだ。
てかあたし、浴衣だし。
ほぼすっぴんだし。
しかもこれ、スリッパだよ。
でももう、ここまで来たからには引き返す訳にはいかない。
いや、引き返したくない。