fate
夕方からツレと約束があるんだ、と言って在原さんは時計を気にし始めた。
「そっか…じゃあもう帰ろっか」
あたしは素直に立ち上がって、オシリについた砂をはたいた。
ほんとにツレとの約束なの?なんて聞いたら、重い女だと思われてしまう。
絶対に嫌われたくない。
先に歩き出した在原さんが左手を差し出してくれたので、黙って右手を絡ませる。
「手冷やしちゃったね。ごめんね」
「ううん。もともと冷たいから…」
あたたかい手に包まれて、右手だけ体温が上がっていくように感じる。
車に乗ってからも手をつないでくれて、どんどん離れたくなくなっていく。
それでも、この手は離さないといけない。
「気をつけてね」
家の近くで車を停めて、また抱きしめられていた。
「うん。ありがとう。
あー、K市がもっと近かったらなぁ…」
「遠いよー……色んな意味で」
嫌味っぽく言うと、在原さんは困ったように笑った。
そして優しくキスをして、
「またね」
と言った。