僕と彼女とレンタル家族
第1.5話
 在過の話を真剣に聞いている妻と娘の瞳は、ビー玉のように綺麗で吸い込まれる感覚があった。5歳とは思えない幼い娘が、僕の過去の恋愛話を理解できているだろうか?と思う在過だが、その真剣な瞳にはすべて理解している人に感じた。



「介護職の資格は持っていることは知っていましたけど、勤務されていたんですね」



「そうだね。資格が欲しくて3年ほど勤務していたんだ。資格取得後には、給料の件もあって、今の職業に転職したわけだ」



「ねぇねぇ、介護職ってなぁに?」



「そうだなぁ。僕たちがこうやって生活できるのは、いまのおじいちゃん、おばあちゃんが頑張ってくれたからなんだ。その人達に恩返しをするお仕事だよ」



「ママもパパも、キコちゃんが大人になるために頑張るからね」



「わかった! 大人になったら恩返しすればいいんだね! すっごく大きなぬいぐるみ買ってあげる」



「まぁ、楽しみね」



二人の姿を見て、縛られている過去から抜け出さなければいけない。妻と娘の笑顔を守るために、幸せのために、今度こそ自分を変えなければいけない。



在過は、逃げ続けてきた過去と向き合う覚悟を今まで何度も挑戦してきたが、言葉と出会うまで、幾度も失敗してきていた。



覚悟を決めては、挫折し泣き叫ぶ。そんな事を繰り返していくうちに、記憶と心に疑似記憶を重ねることで、精神を維持してきたのだった。



そう、在過は過去から逃げて記憶改ざんと言う自分自身へ洗脳と言う暗示で、精神を守っていた。



【最初から、篠崎神鳴はいなかった。最初から、恋人ではなかった。最初から、同棲などしていなかった】



「でも、パパの話を聞く限りだと恋愛に発展しそうな出来事ってありませんね。強いて言うなら、同じゲームが好きだったくらいですけど」



「うん。僕も好きって気持ちはこの段階ではなかった。この後の夜勤業務を一緒にしたことで、付き合うことになるんだけど……。僕はまだ、恋愛的な好きではなかったんだ。そして、10年経って分かったこともある。彼女もまた、違った好意だったんだ」



「うぅぅぅ! 早く早く続き話してよぉ~時間なくなるよ」



「あ、ああ」



背筋がゾクッとする感覚が在過を襲った。希心の瞳に吸い込まれるような、心臓が押しつぶされるような不快感。



生唾をゴクッと飲み込む音がハッキリと聞こえ、在過は感覚的に苦しいと言う空間に僕だけ取り残されている違和感を感じていた。
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