僕と彼女とレンタル家族
第40話 「喫茶店5」
「あはは……痛いね」
「そう思うってことは、全部じゃなかったとしても理解している部分はあったのかな」
「そう……なのかな」
「まぁ、神鳴さんのご両親が異常なくらい過保護なのは、誰が聞いてもわかるだろうねぇ」
「いや、ほんとだよな。正直今までに出会ったことないくらい気持ち悪いぞ。初めて話したその日から、正直なところ生理的に無理! って感情が湧き出てたもんな」
「部分的にしか知らないから、無責任なのこと言えないけど。想像以上みたいだね」
「なんだろ。美容院とヘアスタイルも一緒で、神鳴がボイストレーニングの塾に通ってるらしいんだけど、母親も一緒に通ってるらしくて。25歳だぞ? さすがに全部母親と一緒って……まじ?って思ってたら。デート含めてだけど、常にママと電話繋げて僕らの会話聞かせてるっぽいし。さらに言えば、信用して神鳴に話した過去の話とかも母親に筒抜けで脅される…いや」
「ちょっ脅されるってなんだよ」
「いや、まぁ。とにかく、母親は嫌いと言うより、僕の中で異物みたいな存在になっているけど、彼女のことは好きだよ。 なんか……こう、ほっとけないと言うか、なんか心配と言うか。うまく言えないんだが……」
「んぅ……」
小森は、在過の話を聞いて言うべきか迷っていた。恋愛において、相手の事が好きで守ってあげたいと思うのは男性なら本能だろう。しかし、在過のその感情は恋愛ではないと。
それはきっと、母親と言うトラウマをもった在過の視点から見る神鳴の母親が、自分と同じように神鳴が不幸になるのではないか。
そんな、彼女を守ってあげたいと。助けてあげたいと。いつも言っていた、妹を助けてあげられなかった、これからも助ける事ができない。なんの力もないと弱音を吐く在過が痛々しく見えていた。
【早く気づけ。それは恋愛感情じゃない。君は囚われすぎている。君は、神鳴さんの家族じゃない、他人なんだよ。その感情は傲慢で自己満足。君は、家族を救えなかったと言う罪悪感に囚われて、神鳴さんを母親の存在から救ってあげたいと言う押し付け。君の中では不幸にするかもしれないと感じている母親でも、彼女にとっては最高の母親なんだよ。だから、早く気づけ。私は怖い。痛々しい君を見ていると、いつか取り返しがつかなくなるかもしれないと思ってしまう】
珈琲を飲みながら煙草を吸っている在過を見て、小森は本人に伝えたい気持ちをグッと胸に抑え込んでいた。いまの在過に言っても、きっと届かない。アドバイスは受け入れてくれるだろうが、信念を曲げない。実際に自分で行動して、それが苦渋を飲むことだったとしても経験するまでは、それが正しいと思っている。だが、学生時代から在過を見ている小森には、痛々しい姿に見えていた。
「まぁ、私が言えることは一人で抱え込むなってことだな。いつでも話聞いてやるし、休み合えば遊ぼうぜ。私なんかじゃ力になれないけど、これでも近藤より年上だからな。 見た目は男だが、心は可憐な乙女なんだからな? 多少なりと、女心のアドバイスができるかもしれん」
「そうだな。気分が楽になったよ。可憐な乙女でって発言で思い出したけど、今日スカートで来るって言ってなかった?」
「うっ。いや、やっぱ恥ずかしくてさ。ほら、見た目は男だろ? それで女性服着てたら、変態扱いされて警察に捕まりそうだし。それに……まだ、近藤に見せるのが恥ずかしい」
「なんだ、そんなことか。恥ずかしいなら僕も着てあげるよ。女性用の服持ってないけど、一人で着るのが恥ずかしいなら、別に僕も一緒に着てくるよ?」
「……その時は、お願いするかも」
「あぁ、その時は遠慮なく言ってくれ。ただ、事前に教えてくれないと、服を持ってないから買う必要がある」
「わかった。まぁ、まだ勇気出ないから」
「のんびり行こう」
「そうだね。あっ珈琲おかわり持ってくるよ」
「なら、僕も行くか」
「タバコ吸いかけじゃん。近藤の分ももらってくるよ、待ってて」
「なんか悪いね。ありがとう」
「いいえ」
小森はカップを二つ持つと、カウンター方面へ消えていく。
ただじっとテーブル面を眺めながら、在過はタバコの煙を肺まで落としていると、携帯画面にメッセージアプリからの通知が表示された。
【パパが話があるって】
「そう思うってことは、全部じゃなかったとしても理解している部分はあったのかな」
「そう……なのかな」
「まぁ、神鳴さんのご両親が異常なくらい過保護なのは、誰が聞いてもわかるだろうねぇ」
「いや、ほんとだよな。正直今までに出会ったことないくらい気持ち悪いぞ。初めて話したその日から、正直なところ生理的に無理! って感情が湧き出てたもんな」
「部分的にしか知らないから、無責任なのこと言えないけど。想像以上みたいだね」
「なんだろ。美容院とヘアスタイルも一緒で、神鳴がボイストレーニングの塾に通ってるらしいんだけど、母親も一緒に通ってるらしくて。25歳だぞ? さすがに全部母親と一緒って……まじ?って思ってたら。デート含めてだけど、常にママと電話繋げて僕らの会話聞かせてるっぽいし。さらに言えば、信用して神鳴に話した過去の話とかも母親に筒抜けで脅される…いや」
「ちょっ脅されるってなんだよ」
「いや、まぁ。とにかく、母親は嫌いと言うより、僕の中で異物みたいな存在になっているけど、彼女のことは好きだよ。 なんか……こう、ほっとけないと言うか、なんか心配と言うか。うまく言えないんだが……」
「んぅ……」
小森は、在過の話を聞いて言うべきか迷っていた。恋愛において、相手の事が好きで守ってあげたいと思うのは男性なら本能だろう。しかし、在過のその感情は恋愛ではないと。
それはきっと、母親と言うトラウマをもった在過の視点から見る神鳴の母親が、自分と同じように神鳴が不幸になるのではないか。
そんな、彼女を守ってあげたいと。助けてあげたいと。いつも言っていた、妹を助けてあげられなかった、これからも助ける事ができない。なんの力もないと弱音を吐く在過が痛々しく見えていた。
【早く気づけ。それは恋愛感情じゃない。君は囚われすぎている。君は、神鳴さんの家族じゃない、他人なんだよ。その感情は傲慢で自己満足。君は、家族を救えなかったと言う罪悪感に囚われて、神鳴さんを母親の存在から救ってあげたいと言う押し付け。君の中では不幸にするかもしれないと感じている母親でも、彼女にとっては最高の母親なんだよ。だから、早く気づけ。私は怖い。痛々しい君を見ていると、いつか取り返しがつかなくなるかもしれないと思ってしまう】
珈琲を飲みながら煙草を吸っている在過を見て、小森は本人に伝えたい気持ちをグッと胸に抑え込んでいた。いまの在過に言っても、きっと届かない。アドバイスは受け入れてくれるだろうが、信念を曲げない。実際に自分で行動して、それが苦渋を飲むことだったとしても経験するまでは、それが正しいと思っている。だが、学生時代から在過を見ている小森には、痛々しい姿に見えていた。
「まぁ、私が言えることは一人で抱え込むなってことだな。いつでも話聞いてやるし、休み合えば遊ぼうぜ。私なんかじゃ力になれないけど、これでも近藤より年上だからな。 見た目は男だが、心は可憐な乙女なんだからな? 多少なりと、女心のアドバイスができるかもしれん」
「そうだな。気分が楽になったよ。可憐な乙女でって発言で思い出したけど、今日スカートで来るって言ってなかった?」
「うっ。いや、やっぱ恥ずかしくてさ。ほら、見た目は男だろ? それで女性服着てたら、変態扱いされて警察に捕まりそうだし。それに……まだ、近藤に見せるのが恥ずかしい」
「なんだ、そんなことか。恥ずかしいなら僕も着てあげるよ。女性用の服持ってないけど、一人で着るのが恥ずかしいなら、別に僕も一緒に着てくるよ?」
「……その時は、お願いするかも」
「あぁ、その時は遠慮なく言ってくれ。ただ、事前に教えてくれないと、服を持ってないから買う必要がある」
「わかった。まぁ、まだ勇気出ないから」
「のんびり行こう」
「そうだね。あっ珈琲おかわり持ってくるよ」
「なら、僕も行くか」
「タバコ吸いかけじゃん。近藤の分ももらってくるよ、待ってて」
「なんか悪いね。ありがとう」
「いいえ」
小森はカップを二つ持つと、カウンター方面へ消えていく。
ただじっとテーブル面を眺めながら、在過はタバコの煙を肺まで落としていると、携帯画面にメッセージアプリからの通知が表示された。
【パパが話があるって】