僕と彼女とレンタル家族
第41話 「喫茶店6」
在過は、タバコの煙を肺まで落としていた時だった。テーブルに置かれていた携帯のバイブ音が響き、携帯画面にメッセージアプリからの通知が表示された。
【パパが話があるって】
「けっほッげほォ」
タバコの煙を吐き出す前に通知を見てしまった在過は、ゴクッと空気も一緒に飲み込んでしまい激しくむせる。近くに飲み物がなく、ニコチンによる吐き気と一緒に何度もむせこんでいると。
「おっおい、大丈夫か?」
「けっほ……ケホッ。あぁ、ちょっと煙が」
「あぁ、ゆっくり吸わないとダメじゃない。ほら、熱いけどコーヒー飲んで。あと、水もらってくるから待ってて」
湯気が立っている珈琲をテーブルに置き、小走りでカウンターへ再度向かっていった。在過は、珈琲をゆっくり飲み呼吸を整える。視線だけ携帯画面に向け、表示される「パパが話をしたい」と言う一文に肝を冷やす。
「お待たせ、ほら冷たいお水」
「ごめん。ありがとう」
「いいよ、私も経験あるから苦しいんだよねぇ」
「あ、あぁ」
「……近藤。これ」
在過の携帯画面に表示された通知を指差してる小森が、心配そうな表情で見つめていた。正直なところ、通知内容の件に関して在過は伝えないつもりでいたが、別の通知が画面を表示させてしまい小森に見られていた。
「……あはは。なんだろうな、遅かれ早かれ父親も出てくると思ってたけど。やっぱり……きたか」
「なぁ、本当に大丈夫なのか?」
「わからん。父親に関する情報って、個人事業主で篠崎建築やっている人ってだけだからな。……あぁ胃が痛いんだけど」
「んぅ……。社長さんなら、常識あるだろうし大丈夫な気がするけど。父親と話するの?」
「そうだね。個人的には、なにも間違ったことしてないと思ってるけど。泣かせたことも事実だからなぁ」
「近藤が決めたなら、私は見守るけど。言いたくないかも知れないけど、どうせまた嫌なことあっても抱え込んで自暴自棄になるんだから、全部話せよ」
「あぁ……」
「早めに返信したほうがいいんじゃない? 私の想像だけど、父親も母親も一緒になってこのメール送ってると思うよ」
「ちょっ怖いこと言うなよ」
「怖がらせるつもりないけど。神鳴さんとメッセージやり取りしてる内容も、全部見られてるか筒抜けだと思うけどね。だって、母親に話してないことも知ってたんでしょ?」
「……返信するか」
携帯画面のロックを解除し、メッセージアプリを起動させる。深い呼吸を繰り返す在過は覚悟を決めた。
【わかった。すぐに話がしたいなら、明日遅番だから、21時頃からになる。急いでいないなら、日程確認して連絡するよ」
神鳴の両親に見られていると仮定して文面を作成していく。隣に座る小森も内容を確認しており、小さく頷く動作をした。ズキッと胸の痛みが走るが、右手の親指で送信ボタンに触れた。
メッセージアプリ上に送信された文面が表示されると、一瞬にして既読と言う文字が表示される。
【パパとママが、明日で大丈夫だって。仕事終わるころに迎えに行くって】
返信内容から、小森が言ったように両親も一緒になってメールをしているようだった。神鳴は実家暮らしではなく、職場の近い母方のお父さん家に暮らしていた。在過は、神鳴の両親が住む実家で話をするのか、おじいちゃんの自宅で話をするのか緊張が襲う。
「ふぅ~……」
「近藤は、これからどうしたいんだ?」
「どうしたいって?」
「いや、相手の両親からすると、確実に別れ話だと思う。もし、そうだったとして、近藤はどうするんだ?」
「あぁ。まぁ、100%別れろって言われるだろうね。母親含めて別れろアプローチ凄いから」
「最終的には自分で決める事だけどさ。私個人の意見としては、このまま一緒に居てもロクなことがないと思う」
「うん……。一緒に居たいと思っているかな。やっぱり、家族の話をしても居てくれた人だから」
「さっきも言ったけど、その気持ちで判断するのは危険だって! いや、ごめん。近藤が決める事だからね」
「なんか、ごめん」
「いいって、近藤がそう言う奴だって知ってるから」
満面の笑みで笑う小森は、何度か在過の肩を叩く。箱からタバコを一本取り出して火をつけ、煙を肺にまで落としていく。ゆっくりと煙を吐き出し、小森は言った。
「絶対に話せよ。隠すなよ」
それは真剣表情で、どこか怒っている雰囲気も漂わせていた。しかし、小森の気持ちやアドバイスを、在過は受け入れることをしなかった。
小森との会話の中で、今後どうするのか濁して話をする在過だが、当本人の気持ちはすでに固まっていた。神鳴の両親が何と言おうと、好きになった女性を手放しなくない。嫉妬深く、すぐに泣き出してしまい錯乱する彼女を守りたいと言う気持ち。
今までの恋愛で感じたことのない気持ち。
この女性じゃなければいけない……そんな感覚。
――この時すでに、在過は神鳴と言う女性に、過去になかった安心感と言う拠り所に依存してた。
そして、ずっと付き合いの長い友人である小森は気づいていた。何度もその事実を伝えようとした。彼が望んでいたのは恋愛でなく、側に居てくれる家族が欲しいだけなのだと。
――だから心を鬼にして小森は伝えようとしたが、できなかった。好きになる対象は誰でもいいんじゃないの? 側にいてくれて、近藤の家族を理解してくれる人であれば、目の前にいる恋愛対象は誰でもいいんだろ?
タバコを吸いながら珈琲を飲んでいる在過を見て、小森は不安が増していた。
「わかった。迷惑かけるけど、結果を聞いてもらえると助かる」
「任せなさいっ。お姉さんが的確なアドバイスを進呈しましょう」
「くくくっ。頼りにしてますよ」
「なに笑ってんだよぉ」
「これからも頼りにしてますよっ」
その後、二人は1時間ほど喫茶店で過ごして解散となった。
【パパが話があるって】
「けっほッげほォ」
タバコの煙を吐き出す前に通知を見てしまった在過は、ゴクッと空気も一緒に飲み込んでしまい激しくむせる。近くに飲み物がなく、ニコチンによる吐き気と一緒に何度もむせこんでいると。
「おっおい、大丈夫か?」
「けっほ……ケホッ。あぁ、ちょっと煙が」
「あぁ、ゆっくり吸わないとダメじゃない。ほら、熱いけどコーヒー飲んで。あと、水もらってくるから待ってて」
湯気が立っている珈琲をテーブルに置き、小走りでカウンターへ再度向かっていった。在過は、珈琲をゆっくり飲み呼吸を整える。視線だけ携帯画面に向け、表示される「パパが話をしたい」と言う一文に肝を冷やす。
「お待たせ、ほら冷たいお水」
「ごめん。ありがとう」
「いいよ、私も経験あるから苦しいんだよねぇ」
「あ、あぁ」
「……近藤。これ」
在過の携帯画面に表示された通知を指差してる小森が、心配そうな表情で見つめていた。正直なところ、通知内容の件に関して在過は伝えないつもりでいたが、別の通知が画面を表示させてしまい小森に見られていた。
「……あはは。なんだろうな、遅かれ早かれ父親も出てくると思ってたけど。やっぱり……きたか」
「なぁ、本当に大丈夫なのか?」
「わからん。父親に関する情報って、個人事業主で篠崎建築やっている人ってだけだからな。……あぁ胃が痛いんだけど」
「んぅ……。社長さんなら、常識あるだろうし大丈夫な気がするけど。父親と話するの?」
「そうだね。個人的には、なにも間違ったことしてないと思ってるけど。泣かせたことも事実だからなぁ」
「近藤が決めたなら、私は見守るけど。言いたくないかも知れないけど、どうせまた嫌なことあっても抱え込んで自暴自棄になるんだから、全部話せよ」
「あぁ……」
「早めに返信したほうがいいんじゃない? 私の想像だけど、父親も母親も一緒になってこのメール送ってると思うよ」
「ちょっ怖いこと言うなよ」
「怖がらせるつもりないけど。神鳴さんとメッセージやり取りしてる内容も、全部見られてるか筒抜けだと思うけどね。だって、母親に話してないことも知ってたんでしょ?」
「……返信するか」
携帯画面のロックを解除し、メッセージアプリを起動させる。深い呼吸を繰り返す在過は覚悟を決めた。
【わかった。すぐに話がしたいなら、明日遅番だから、21時頃からになる。急いでいないなら、日程確認して連絡するよ」
神鳴の両親に見られていると仮定して文面を作成していく。隣に座る小森も内容を確認しており、小さく頷く動作をした。ズキッと胸の痛みが走るが、右手の親指で送信ボタンに触れた。
メッセージアプリ上に送信された文面が表示されると、一瞬にして既読と言う文字が表示される。
【パパとママが、明日で大丈夫だって。仕事終わるころに迎えに行くって】
返信内容から、小森が言ったように両親も一緒になってメールをしているようだった。神鳴は実家暮らしではなく、職場の近い母方のお父さん家に暮らしていた。在過は、神鳴の両親が住む実家で話をするのか、おじいちゃんの自宅で話をするのか緊張が襲う。
「ふぅ~……」
「近藤は、これからどうしたいんだ?」
「どうしたいって?」
「いや、相手の両親からすると、確実に別れ話だと思う。もし、そうだったとして、近藤はどうするんだ?」
「あぁ。まぁ、100%別れろって言われるだろうね。母親含めて別れろアプローチ凄いから」
「最終的には自分で決める事だけどさ。私個人の意見としては、このまま一緒に居てもロクなことがないと思う」
「うん……。一緒に居たいと思っているかな。やっぱり、家族の話をしても居てくれた人だから」
「さっきも言ったけど、その気持ちで判断するのは危険だって! いや、ごめん。近藤が決める事だからね」
「なんか、ごめん」
「いいって、近藤がそう言う奴だって知ってるから」
満面の笑みで笑う小森は、何度か在過の肩を叩く。箱からタバコを一本取り出して火をつけ、煙を肺にまで落としていく。ゆっくりと煙を吐き出し、小森は言った。
「絶対に話せよ。隠すなよ」
それは真剣表情で、どこか怒っている雰囲気も漂わせていた。しかし、小森の気持ちやアドバイスを、在過は受け入れることをしなかった。
小森との会話の中で、今後どうするのか濁して話をする在過だが、当本人の気持ちはすでに固まっていた。神鳴の両親が何と言おうと、好きになった女性を手放しなくない。嫉妬深く、すぐに泣き出してしまい錯乱する彼女を守りたいと言う気持ち。
今までの恋愛で感じたことのない気持ち。
この女性じゃなければいけない……そんな感覚。
――この時すでに、在過は神鳴と言う女性に、過去になかった安心感と言う拠り所に依存してた。
そして、ずっと付き合いの長い友人である小森は気づいていた。何度もその事実を伝えようとした。彼が望んでいたのは恋愛でなく、側に居てくれる家族が欲しいだけなのだと。
――だから心を鬼にして小森は伝えようとしたが、できなかった。好きになる対象は誰でもいいんじゃないの? 側にいてくれて、近藤の家族を理解してくれる人であれば、目の前にいる恋愛対象は誰でもいいんだろ?
タバコを吸いながら珈琲を飲んでいる在過を見て、小森は不安が増していた。
「わかった。迷惑かけるけど、結果を聞いてもらえると助かる」
「任せなさいっ。お姉さんが的確なアドバイスを進呈しましょう」
「くくくっ。頼りにしてますよ」
「なに笑ってんだよぉ」
「これからも頼りにしてますよっ」
その後、二人は1時間ほど喫茶店で過ごして解散となった。