僕と彼女とレンタル家族
第42話 「家族会議」
昨日の連絡から、神鳴からの連絡はなく沈黙の時間が経過していた。在過は、遅番帯の業務を終え、更衣室で着替えを済ませたのちに、メッセージアプリを起動して連絡をしていた。
「いま終わったから、職場を出るけど」
「わかった。すぐ近くにいるから」
従業員出入り口を開けて外に出ると、ハザードランプが点滅している車を見つける。在過は、あの車なのか? と言う考えを巡らせていると車内から神鳴が降りてきて、手招きをした。
「在君~。こっちだよぉ~」
合図をするように右手を一瞬あげて、小走りするように神鳴の元へ駆け寄る。車内の窓から、こちらを覗き込む神鳴の母親である雷華。そして、助手席に座っている茶髪で長髪の男性もまた、こちらを覗き込むようにして視線を交わす。
雷華とは、何度も合って言い争いのような事をしていたこともあり、在過にとっては関わりたくない人であった。無意識な拒否と怒りに似た感情が、どうしても雷華と言う女性に抱いてしまっている。また、助手席に見える男性。神鳴の父親であろう人を見た在過は、イメージしていた父親と違うことに緊張感が走る。肩まで伸びだ長髪に、雷華とは正反対に細身な体系だ。
神鳴は、車のドアを開けて後部座席に乗り込み「入って入って」とニコニコした表情で手招きをする。躊躇しながらも、車内に乗り込み神鳴の隣に座った。
「失礼します。夜分遅くに迎えにまで来ていただいて、ありがとうございます」
「ん、君が近藤君だね」
神鳴の父親は、一瞬だけ振り向いて在過を認識する。たった数秒ほど相手の瞳を見つめる時間だったが、何分、数十分と蛇に睨まれるかのような不思議な感覚に襲われていた。
「ふぅん……これは、厄介だね。とりあえず、お義父さんの家に行こうか」
小さな声だったが、確かに神鳴の父親は厄介と言う言葉を在過に向けて漏らした。聞こえるように言ったのか、聞こえないと思って心の声が漏れたのか。在過は、そんな小さく漏れた言葉に緊張が走る。
運転席に座る雷華に向かって、お義父さんの家に行こうと伝えた父親の発言から、実家ではなく神鳴がお世話になっていると言うおじいちゃんの家なのだろうと判断した。
「在君、在君。神鳴のパパとママでーす! さっきまでね、パパとママと一緒にお買物して、ご飯食べて服沢山買ってもらっちゃった」
「そっそうなんだ。よかったね」
「えへへ。自慢のパパとママです。でねでね、パパったらねご飯食べてるときに箸落としちゃって、ママに怒られて落ち込んでるのぉ。でもでも、ママが自分の箸をパパに渡して、自分が落としたことにして店員さんに交換してもらってるの! ママ優しいんだよ!」
「うんうん。優しいね、理想の夫婦だね」
「でしょぉ~。神鳴ね、パパとママ大好きなのぉ。パパもママも神鳴のこと好きだよねぇ~」
後席から前席に身をのりだす神鳴は、共感を求めるかのように両親に語り掛ける。在過は、神鳴の姿を眺め思う。普段見たことがないほど喜び、無邪気に笑う神鳴の姿が本来の彼女なのだろうかと。在過が知っている神鳴は、嫉妬深く、すぐに泣き出してしまい取り乱してしまう不安定な女の子と言う印象。しかし、いま側にいる神鳴にその感情が湧いてこない。
「神鳴、いま運転中だから騒がないの。近藤君を少し見習いなさい」
「ほら、ママに嫌われるぞ。座ってなさい」
「ぶぅ~~。パパとママは神鳴のこと嫌いにならないもん」
「はいはい。嫌いにならないから暴れないの」
神鳴と両親のやり取りが、微笑ましい感情に在過は包まれていた。大好きな両親に無邪気に話しかけ、子供をあやすかのように両親も娘に笑って言葉を返す。言葉だけ見れば注意されている神鳴だが、それもまた嬉しそうに受け止めている。
「ねぇねぇ、これ見て。パパが買ってくれた服なんだけど可愛いでしょ」
茶色い紙袋から、何着も服を取り出すと在過に見せつける。試着して、パパとママが可愛いと褒めてくれたこと。ママとお揃いの服を何着か購入して、近いうちにデパートへ行くこと。次第に、在過は一つの結論に辿り着く。
神鳴は、パパとママが凄いと自慢をしたい。優しくて、守ってくれて、欲しいものを買ってくれる自慢の両親を褒めてほしいのだ。その証拠に、いいお父さん、いいお母さんだね……と言う在過の発言に満面の笑みを見せていたからだった。
今日の出来事を楽しく在過に伝えている神鳴とは逆に、在過はルームミラーでずっと見られている父親の視線と格闘していた。神鳴の話を聞いている合間に、ルームミラーに視線を向けると必ず父親と視線がぶつかり合う。今回呼ばれた件に関しては、娘が泣かされた件と言う事は考えるまでもない。
父親からしたら、泣かせた相手の男がどういう奴なのか知るために見ているのだろう。視線を逸らさず、神鳴から喋りかけられる間での合間合間に、数秒、数分と父親の見つめあう状態が続いていた。
それから10分ほどして、現在神鳴が住む家に到着した。
「いま終わったから、職場を出るけど」
「わかった。すぐ近くにいるから」
従業員出入り口を開けて外に出ると、ハザードランプが点滅している車を見つける。在過は、あの車なのか? と言う考えを巡らせていると車内から神鳴が降りてきて、手招きをした。
「在君~。こっちだよぉ~」
合図をするように右手を一瞬あげて、小走りするように神鳴の元へ駆け寄る。車内の窓から、こちらを覗き込む神鳴の母親である雷華。そして、助手席に座っている茶髪で長髪の男性もまた、こちらを覗き込むようにして視線を交わす。
雷華とは、何度も合って言い争いのような事をしていたこともあり、在過にとっては関わりたくない人であった。無意識な拒否と怒りに似た感情が、どうしても雷華と言う女性に抱いてしまっている。また、助手席に見える男性。神鳴の父親であろう人を見た在過は、イメージしていた父親と違うことに緊張感が走る。肩まで伸びだ長髪に、雷華とは正反対に細身な体系だ。
神鳴は、車のドアを開けて後部座席に乗り込み「入って入って」とニコニコした表情で手招きをする。躊躇しながらも、車内に乗り込み神鳴の隣に座った。
「失礼します。夜分遅くに迎えにまで来ていただいて、ありがとうございます」
「ん、君が近藤君だね」
神鳴の父親は、一瞬だけ振り向いて在過を認識する。たった数秒ほど相手の瞳を見つめる時間だったが、何分、数十分と蛇に睨まれるかのような不思議な感覚に襲われていた。
「ふぅん……これは、厄介だね。とりあえず、お義父さんの家に行こうか」
小さな声だったが、確かに神鳴の父親は厄介と言う言葉を在過に向けて漏らした。聞こえるように言ったのか、聞こえないと思って心の声が漏れたのか。在過は、そんな小さく漏れた言葉に緊張が走る。
運転席に座る雷華に向かって、お義父さんの家に行こうと伝えた父親の発言から、実家ではなく神鳴がお世話になっていると言うおじいちゃんの家なのだろうと判断した。
「在君、在君。神鳴のパパとママでーす! さっきまでね、パパとママと一緒にお買物して、ご飯食べて服沢山買ってもらっちゃった」
「そっそうなんだ。よかったね」
「えへへ。自慢のパパとママです。でねでね、パパったらねご飯食べてるときに箸落としちゃって、ママに怒られて落ち込んでるのぉ。でもでも、ママが自分の箸をパパに渡して、自分が落としたことにして店員さんに交換してもらってるの! ママ優しいんだよ!」
「うんうん。優しいね、理想の夫婦だね」
「でしょぉ~。神鳴ね、パパとママ大好きなのぉ。パパもママも神鳴のこと好きだよねぇ~」
後席から前席に身をのりだす神鳴は、共感を求めるかのように両親に語り掛ける。在過は、神鳴の姿を眺め思う。普段見たことがないほど喜び、無邪気に笑う神鳴の姿が本来の彼女なのだろうかと。在過が知っている神鳴は、嫉妬深く、すぐに泣き出してしまい取り乱してしまう不安定な女の子と言う印象。しかし、いま側にいる神鳴にその感情が湧いてこない。
「神鳴、いま運転中だから騒がないの。近藤君を少し見習いなさい」
「ほら、ママに嫌われるぞ。座ってなさい」
「ぶぅ~~。パパとママは神鳴のこと嫌いにならないもん」
「はいはい。嫌いにならないから暴れないの」
神鳴と両親のやり取りが、微笑ましい感情に在過は包まれていた。大好きな両親に無邪気に話しかけ、子供をあやすかのように両親も娘に笑って言葉を返す。言葉だけ見れば注意されている神鳴だが、それもまた嬉しそうに受け止めている。
「ねぇねぇ、これ見て。パパが買ってくれた服なんだけど可愛いでしょ」
茶色い紙袋から、何着も服を取り出すと在過に見せつける。試着して、パパとママが可愛いと褒めてくれたこと。ママとお揃いの服を何着か購入して、近いうちにデパートへ行くこと。次第に、在過は一つの結論に辿り着く。
神鳴は、パパとママが凄いと自慢をしたい。優しくて、守ってくれて、欲しいものを買ってくれる自慢の両親を褒めてほしいのだ。その証拠に、いいお父さん、いいお母さんだね……と言う在過の発言に満面の笑みを見せていたからだった。
今日の出来事を楽しく在過に伝えている神鳴とは逆に、在過はルームミラーでずっと見られている父親の視線と格闘していた。神鳴の話を聞いている合間に、ルームミラーに視線を向けると必ず父親と視線がぶつかり合う。今回呼ばれた件に関しては、娘が泣かされた件と言う事は考えるまでもない。
父親からしたら、泣かせた相手の男がどういう奴なのか知るために見ているのだろう。視線を逸らさず、神鳴から喋りかけられる間での合間合間に、数秒、数分と父親の見つめあう状態が続いていた。
それから10分ほどして、現在神鳴が住む家に到着した。