僕と彼女とレンタル家族
第49話 「家族会議8」
「娘と距離をあけなさい。君の為でもあるんだよ」

「いや、実の娘に洗脳できるって頭おかしいでしょ。大変失礼かもしれませんが、そんな発言する親の側に好きな人を渡したくありません。俺は彼女を連れて帰ります」

在過(とうか)の発言を聞いた大迦(おおか)は、苦笑し小馬鹿にするかのように大笑いをした。

「堂々と誘拐宣言するなんて、すごいね」

「……すこし語弊(ごへい)がありました。個人的な考えとして、俺はこの両親の側に好きな人がいる状況がヤバいと感じたので連れて帰ると言いましたが、俺と帰るかの最終判断は本人が決める事だと思うので娘さんが一緒にくると言ってくれるなら、そのまま連れて帰ります」

「ほう。それで君も娘を洗脳するつもりかい?」

「は?」

「おかしいと思っていたんだ。今までも同じような経験をしているが、なぜか君と一緒になってから家には帰らない。それに、泣かされているのに帰ってこない。本来ありえないんだよ」

「そうね、神鳴は毎日のように泣きながら電話とメールで連絡くれて、帰って来なさいって言ってるのに私達に歯向かうなんて、どう考えてもおかしい」

 会話を重ねるごとに感じる違和感。過保護と言う言葉が存在するが、そんな優しいものではない。在過の両親を酷い親と称するのであれば、目の前にいる両親は異形とさえ感じていた。

 この両親に関わってはいけない。そんな本能が警告するかのように、不安と怒りが混ざり合う。深く関わらなければ、深く話をしなければ、親が子を守る理想像に見えていたかもしれない。だが、在過の視界に入ってくる家族像は、実の父親が洗脳できると発言し、実の母親は娘に内緒で在過の妹を馬鹿にし見下す。

 涙を流し続けている本人は知ってか知らでか、神鳴の友人とネット上の友達が起こしている精神攻撃。

 好きになった人が、こんな環境にいることが()()()()と思ってしまった在過は自分の中で決意を立てる。

 アニメやゲームなどの世界にしか存在しないと思いっていた洗脳と言うリアルを、現実で経験することになる。在過は神鳴と一緒に幸せになりたいと心の火が灯り、どうすればいいのか考える。

 すでに両親の発言が絶対で正しいと、そう洗脳されているのかもしれない。ならば、今できる最善は両親と会う回数を減らし、会話する頻度を減らしていけばいい。

 この先も両親の考えと、在過の考えや行動が違うことで神鳴は戸惑い泣くだろう。しかし、好きな人が最後に笑ってくれるなら、それは【違うよ】と伝えようと……決意した瞬間であった。

「神鳴さんのお父さんとお母さんが言っている、本来ありえないと言う言葉の理解ができない……と言うより、したくありませんが……。もう二十歳を超えている成人です。帰るも、帰らないも本人決めてそうしたなら、自己責任では? 娘が帰らないのは、お前のせいだと聞こえて不愉快です」

「はぁ……だから何度も言っている。君は娘を理解していない。娘は自分で考えられないから、私達が代弁しているんだよ。娘は病気なんだ、自分で考える事ができないんだ」

 大迦の発言は、在過の我慢し続けてきたストレスや怒りの蓋を破壊するには十分だった。自分のことは、自分自身がよく分かっている。在過は、過去のある事件から性格や行動に仮面をつけ【優しい人】と言う人物像を作り上げていた。しかし、人間の性格は簡単に変わることなく、蓄積されたストレスはいつまでも残り続け、容量を超えた時に爆発する。

 顔がほてり、全身が熱くなっていく。

 今までも冷静ではなかったにしろ、笑顔を崩さななかった在過の表情が、険しく……誰が見ても苛立ち、怖いではなく、危ないと言う表現が重なってしまうほどの怒りが表情に表れていた。

 感情的に行動してはいけない。そう考えているはずが、頭の中にテレビノイズのような不快な頭鳴(ずめい)が邪魔をする。

「自分の娘に……。親が子供に病気とが言ってんじゃねーぞ糞野郎!」
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