僕と彼女とレンタル家族

第51話「家族会議10」

「喘息が関係ないって、娘のことなんだと思ってるの！」

おたふく風邪のように顔を膨らませ、顔を真っ赤に染め上げる雷華(らいか)が声を荒げて叫ぶ。ずっと娘の神鳴(かんな)を抱きしめるように守り、在過(とうか)との会話が噛み合わない。

「はぁ……。あのですね、先ほどの話の中で喘息は関係ないと言っただけあって、喘息を持っていることを軽視しているけじゃないです。それに、俺が苛立っているのは、自分の子供を目の前にして、病気だの洗脳できるだの発言することが、ありえないでしょ？ってことです」

「事実を事実として言っているだけで、なにが悪いのか。私には、全く理解できないね」

「近藤君は、まだ出会って日が浅いから理解できないんですよパパ。あのねぇ近藤君、私たちは、ずっとちっちゃいころから神鳴を見ているから、あなたよりずっと理解しているの」

「それは、両親ですから俺より知ってるのは当然ですね」

「神鳴は女の子なのよ、なぜ男である近藤君は優しくしてあげないの？」

「えっと、あぁ……、ちょっといいですか。さっきからお母さんが会話に入ってくると、話が進まないんですけど。コロコロ話の話題を変えないでほしいです」

「「馬鹿が」」

　雷華と大迦の言葉が重なる。

　感情的に任せて発言と行動する雷華。相手の発言と行動を予想して誘導しながら会話をする大迦。しかし、　雷華と大迦は根本的な根っこ部分の考え方は一緒の様であった。ぼそっと放った言葉は、相手に聞こえるように言ったものではないだろう。自然と、無意識に心の内が漏れた言葉。

　篠崎家は、在過の考えや神鳴に対しての対応が理解できない。その逆で、在過も篠崎家の考えや行動が理解できるものではなかった。

「非難される覚えは正直ありませんけどね。娘さんの前なので言いたくありませんでしたけど、お母さんの方は、もう完全に無理です。俺は二度と関わりたくない。この意味は本人が良く分かってると思いますけど、全部保管していますので」

「……」

　相手を威嚇するように、在過を睨んでいるが言い返してはこなかった。


「お父さんに関しては怖いです。自分の子供を操り人形とでも思ってるんですか？ 幸せになってほしい、守るって気持ちは凄く伝わってきますが、洗脳できると自信満々に発言するのは、怖すぎます。裏でなにやってるか分かったもんじゃない」


　それは唐突に、予想していなかった彼女からの発言だった。いや、在過は冷静に考えれば予想出来ていたのかもしれない、彼女にとって両親が絶対の父(・)であるように。

「パパとママの悪口言うな！！」

　抱きしめられていた雷華の腕を振りほどき、勢いよく座っていた神鳴は立ち上がって叫ぶ。在過と神鳴の視線がぶつかり合い、泣き叫ぶように訴えかけてきた。

　驚きと戸惑いに在過の瞳孔が開く。息を荒げ、肩呼吸をしながら叫ぶ神鳴の姿は両親の為に怒り、両親を守るために立ち上がる、素敵な子供の姿をしていた。小さな子供が、必死になって父親と母親の前にでて両手を広げる。在過の視界には、一瞬そんな光景が脳に直接訴えかけてくる。

　どう頑張っても……勝てない。目の前にいる家族の輪に入る事はできない。俺はなんでこんなに必死になっていたのだろうか？ そんな感情が在過の心に種を植え付ける。

「なんでパパとママの悪口ばっか言うの！ 謝ってよ！ あやまって！」