僕と彼女とレンタル家族
第5.5話
膝の上に座らせて希心を抱きかかえている言葉は、首を傾げながら言う。
「どうなんでしょうね? この時の彼女は、本当に気にしていなかったのではないかしら。いえ、気にしないと言うより、私には関係のない話しと思っていたのかも」
「そうなんだろうか」
「えぇ。現に話しをしている最中でも、アニメを視聴しながら聞いていたのでしょ? 真剣に向き合ってくれるなら、しっかりと聴いていたと思います」
在過は、言葉の言われたことを熟考する。
神鳴に、初めて自分の家族関連の話をしたあとも、隠し事をしないで全部話してほしいと言われた。ゆっくりとではあったが、在過は神鳴に心を許し始めていたので、妹や家族関連の進展があった場合は伝えていた。
しかし、よくよく考えて見ると……彼女はいつも携帯やゲームをしながら聞いていた。
一体どんな気持ちで聞いていて、どうして数年も一緒に居てくれたのだろうか?
結局のところ、破局の原因は妹や家族のこと。そして、在過自身が「私を理解していない。苦しめられていた」と言う言葉が、現在も根強く全身を拘束していた。
在過とて一人の人間であり、不安や恐怖、怒りだってある。
何度も、自身が気づかないだけで神鳴を苦しめていた可能性だってあるし、苦しめた自覚がある事柄だって存在した。
「思い返すと、喧嘩する度に妹の事を言われていたし、最初から嫌だったのかもしれない。彼女の母親にも、言われたことがあるんだ。娘は在過君が可愛そうで、一緒に過してあげていたと」
「彼女のお母さまが、パパをどう思っていたのか? 今の段階ではわかりませんが。これから話してくれる内容の中で、お母さまの存在は大きそうですね」
「いつしか、彼女の背後にいる母親に畏怖していたのは自覚しているよ」
「キコねぇ~ママ好きだよ。でもね――そいつは嫌いだ。相手を思って傷つけてしまった言葉と、相手を蔑視した言葉は違う。そいつは、さぞ気持ちがいい事だろう。娘を守り、相手の心を殺すことの快感を得てしまったのだから」
「お、おい……希心?」
「快感や快楽は蜜だ。一度味わってしまえば、無意識に得ようとする本能。また、信仰心が強い人ほど、守るべき存在以外は害悪! そう、消えろ、私の大切な物を傷つけるな。理由なんていらない、私の大切な可愛い子が泣いている、困っている。ならば、貴様は害悪、駆除対象の他ならない」
優しい表情なのだが、在過に指を指しながら希心が言う。
自分の娘が喋っているはずなのに、別のだけれが言っている感覚。表情も容姿も間違いなく自分の娘。そのはずなのに、在過は呼吸が乱れ恐怖を抱く。
膝の上で希心を抱きかかえている、言葉は気にしていない様子で、愛娘の頭を撫でている。
過去の失恋を語っているせいで、また逃げ出そうと僕の頭はおかしくなっているのか?
在過は、目の前にいる妻と娘を見て不安な気持ちが膨らむ。
「パパ? パパ!」
「あ、え?」
右頬に衝撃を感じ、ハッと我に返る。
両手を床につけ、涙が落ちていく瞬間を認識する。
土下座のような体制で、在過は泣いていた。
「少し休みましょう! 話しかけても返事をしてくれないし、幸せな過去の記憶と、辛い過去が戻ってきてしまっているんです。コーヒーを入れてきますから、希心をお願いしますね」
「すまない……」
どうやら過去の話をしている途中で、在過は自分でも気付かない間に泣き崩れていたらしい。
「そうだよなぁ…」
言葉がコーヒーを入れにキッチンに向かい、希心は小さな体で在過をギュっと抱きしめる。
その姿は、いつも知る娘の姿で、先ほど感じた恐怖感はない。
「ふ…過去話なのに、現実逃避してたってか」
「パパぁ? どうかしたの」
「いや、何でもないよ。パパのお話し難しいだろ。部屋で遊んできてもいいんだぞ」
「ううん。パパを一人にしちゃダメなんだよ。キコがパパの担当なの!」
「あはは、そうか。ママにでも頼まれたな。ありがとぉ~キコぉ~」
在過は、希心をギュ~と抱きしめながら頬をすり寄せる。
「パパ臭い!」
「そんなこと言うなよ~」
「あら、元気が戻ってよかった。はい、キコちゃんは牛乳ね。パパはコーヒーとカステラもどうぞ」
「おっありがとう。あれ?二人のカステラは?」
「ふふ、私は大丈夫です。太りたくないですから」
「キコもいらなぁ~い」
折り畳みテーブルを用意した在過は、言葉がお盆で運んでくれた飲み物とカステラを並べていく。
一人だけカステラを食べると言うのも抵抗があったが「まだまだ話は続くんでしょ? 糖分を摂取してがんばってください」と言われ、在過はコーヒーを飲みながら一切れ口に入れた。
ふんわりとした触感に、口の中で甘味と苦みが広がっていく。そんな美味しそうに食べている姿を見ている妻と娘に、在過は「やっぱ食べるか?」と聞くも拒否される。
「元気がでたぞ! 二人の為にも、克服しないとな」
「そうです。すべて話して、パパの道を開けましょう」
「キコも一緒に行くよ」
「最高の家族で幸せだ! 言葉も希心も、パパ頑張っちゃうぞ」
在過は、一口コーヒーを飲んで過去の記憶を巻き戻す。
「どうなんでしょうね? この時の彼女は、本当に気にしていなかったのではないかしら。いえ、気にしないと言うより、私には関係のない話しと思っていたのかも」
「そうなんだろうか」
「えぇ。現に話しをしている最中でも、アニメを視聴しながら聞いていたのでしょ? 真剣に向き合ってくれるなら、しっかりと聴いていたと思います」
在過は、言葉の言われたことを熟考する。
神鳴に、初めて自分の家族関連の話をしたあとも、隠し事をしないで全部話してほしいと言われた。ゆっくりとではあったが、在過は神鳴に心を許し始めていたので、妹や家族関連の進展があった場合は伝えていた。
しかし、よくよく考えて見ると……彼女はいつも携帯やゲームをしながら聞いていた。
一体どんな気持ちで聞いていて、どうして数年も一緒に居てくれたのだろうか?
結局のところ、破局の原因は妹や家族のこと。そして、在過自身が「私を理解していない。苦しめられていた」と言う言葉が、現在も根強く全身を拘束していた。
在過とて一人の人間であり、不安や恐怖、怒りだってある。
何度も、自身が気づかないだけで神鳴を苦しめていた可能性だってあるし、苦しめた自覚がある事柄だって存在した。
「思い返すと、喧嘩する度に妹の事を言われていたし、最初から嫌だったのかもしれない。彼女の母親にも、言われたことがあるんだ。娘は在過君が可愛そうで、一緒に過してあげていたと」
「彼女のお母さまが、パパをどう思っていたのか? 今の段階ではわかりませんが。これから話してくれる内容の中で、お母さまの存在は大きそうですね」
「いつしか、彼女の背後にいる母親に畏怖していたのは自覚しているよ」
「キコねぇ~ママ好きだよ。でもね――そいつは嫌いだ。相手を思って傷つけてしまった言葉と、相手を蔑視した言葉は違う。そいつは、さぞ気持ちがいい事だろう。娘を守り、相手の心を殺すことの快感を得てしまったのだから」
「お、おい……希心?」
「快感や快楽は蜜だ。一度味わってしまえば、無意識に得ようとする本能。また、信仰心が強い人ほど、守るべき存在以外は害悪! そう、消えろ、私の大切な物を傷つけるな。理由なんていらない、私の大切な可愛い子が泣いている、困っている。ならば、貴様は害悪、駆除対象の他ならない」
優しい表情なのだが、在過に指を指しながら希心が言う。
自分の娘が喋っているはずなのに、別のだけれが言っている感覚。表情も容姿も間違いなく自分の娘。そのはずなのに、在過は呼吸が乱れ恐怖を抱く。
膝の上で希心を抱きかかえている、言葉は気にしていない様子で、愛娘の頭を撫でている。
過去の失恋を語っているせいで、また逃げ出そうと僕の頭はおかしくなっているのか?
在過は、目の前にいる妻と娘を見て不安な気持ちが膨らむ。
「パパ? パパ!」
「あ、え?」
右頬に衝撃を感じ、ハッと我に返る。
両手を床につけ、涙が落ちていく瞬間を認識する。
土下座のような体制で、在過は泣いていた。
「少し休みましょう! 話しかけても返事をしてくれないし、幸せな過去の記憶と、辛い過去が戻ってきてしまっているんです。コーヒーを入れてきますから、希心をお願いしますね」
「すまない……」
どうやら過去の話をしている途中で、在過は自分でも気付かない間に泣き崩れていたらしい。
「そうだよなぁ…」
言葉がコーヒーを入れにキッチンに向かい、希心は小さな体で在過をギュっと抱きしめる。
その姿は、いつも知る娘の姿で、先ほど感じた恐怖感はない。
「ふ…過去話なのに、現実逃避してたってか」
「パパぁ? どうかしたの」
「いや、何でもないよ。パパのお話し難しいだろ。部屋で遊んできてもいいんだぞ」
「ううん。パパを一人にしちゃダメなんだよ。キコがパパの担当なの!」
「あはは、そうか。ママにでも頼まれたな。ありがとぉ~キコぉ~」
在過は、希心をギュ~と抱きしめながら頬をすり寄せる。
「パパ臭い!」
「そんなこと言うなよ~」
「あら、元気が戻ってよかった。はい、キコちゃんは牛乳ね。パパはコーヒーとカステラもどうぞ」
「おっありがとう。あれ?二人のカステラは?」
「ふふ、私は大丈夫です。太りたくないですから」
「キコもいらなぁ~い」
折り畳みテーブルを用意した在過は、言葉がお盆で運んでくれた飲み物とカステラを並べていく。
一人だけカステラを食べると言うのも抵抗があったが「まだまだ話は続くんでしょ? 糖分を摂取してがんばってください」と言われ、在過はコーヒーを飲みながら一切れ口に入れた。
ふんわりとした触感に、口の中で甘味と苦みが広がっていく。そんな美味しそうに食べている姿を見ている妻と娘に、在過は「やっぱ食べるか?」と聞くも拒否される。
「元気がでたぞ! 二人の為にも、克服しないとな」
「そうです。すべて話して、パパの道を開けましょう」
「キコも一緒に行くよ」
「最高の家族で幸せだ! 言葉も希心も、パパ頑張っちゃうぞ」
在過は、一口コーヒーを飲んで過去の記憶を巻き戻す。