俺様パイロットは契約妻を容赦なく溺愛する【極上悪魔なスパダリシリーズ】
これも初めて見る顔で目が離せなくなっていると、彼はふっと瞼を伏せて前方を向いた。
ちょうど信号が青に変わり、ゆっくり車を発進させる彼はわずかに口元が緩んでいる。
「つぐみもわりと深いこと考えてるんだな」
「見くびってもらっちゃ困ります」
若干バカにされている気がして口を尖らせるも、つい熱く語ってしまった自分が恥ずかしくなった。
「……ありがとう」
私も前方に顔を向けた直後、ぽつりと紡がれた優しいひと言を耳が捉えた。心がじんわりと温かくなる。
今日の千里さんはいろいろな表情をかいま見せる。意地悪の中に甘さが加わったり、なにかを秘めて影を落としていたり、儚げな瞳に弱さを滲ませていたり。
まだまだ彼の深い部分は理解できない。わかるようになる日が来るのかすら定かではないけれど、自分が彼をもっと知りたいと望んでいるのは確かだ。
婚姻の契約を結んだ今日は、転機の一日となった。これから私たちは、どんな夫婦になっていくのだろう──。