俺様パイロットは契約妻を容赦なく溺愛する【極上悪魔なスパダリシリーズ】

 怖い。千里さんじゃなくて、深く溺れそうになっている自分が。


「なんで、こんな……私たち、ただの契約夫婦でしょう」
「そうだな」


 彼は事実を認めただけなのに、この味気ない関係が変わる可能性はないと言われたように感じる。そろそろと見上げた彼の顔には、からかうようないつもの笑みもない。

 キスをしたのは、妻だという自覚を持たせるため? ただそれだけで甘い理由がひとつもないとしたら耐えられなくて、私の表情が歪んでいく。


「愛がないなら、もうしないでください!」


 悲しいのか怒っているのか自分でもわからないが、シートベルトを外しながら荒ぶる口調で言い捨て、車のドアを開けた。

 千里さんを残したまま、ひとりエレベーターへ向かう。

 ……逃げてしまった。キスをした理由も、千里さんの本心も、確かめたいのに聞けない。あの人が私を〝契約上の妻〟以上に思っているわけがないという不安が、どうしても邪魔をする。

 彼に愛がないと思い知らされるのは怖い。どうしてこんなに臆病になっているのか、答えを出すのは考えるまでもないほど簡単だ。

 もどかしさで一杯になりながらエレベーターの階数表示を見上げ、まだ熱を持っている唇を噛みしめた。


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