俺様パイロットは契約妻を容赦なく溺愛する【極上悪魔なスパダリシリーズ】
まだ涼しさを感じないぬるい風がまとわりつく中ベンチに座り、混乱する脳内をなんとか整理しようとする。
しかし頭はうまく回らなくて、ただただぼうっとしていると、人がいる気配がしてエントランスのほうに顔を向けた。
「つぐみさん?」
「泉さん……」
小首を傾げてこちらを見ていたのは、仕事終わりらしき泉さんだ。私を見つけ、眼鏡の奥の瞳が柔らかく細められた。
「やっぱりそうだ。どうしたの? こんなところで……」
穏やかに微笑んでこちらに歩み寄る彼は、近くまで来て目を見張った。おそらく、私がひどく浮かない顔をしていたからだろう。
泉さんは心配そうな表情に変わり、「なにかあった?」と優しく声をかけてくれる。おかげで気が緩み、想いが口からこぼれ出す。
「……私は、うまくやっていけそうな気がしていたんです。愛し合っている夫婦じゃなくても、特別な関係が築けたらそれでもいいんじゃないかって」
千里さんは尊敬するパイロットであり、私を助けてくれた恩人であり、からかわれたり叱られたりもするけれど、一緒にいて楽しい人。愛がなくても、これで十分じゃないかと思っていた。