俺様パイロットは契約妻を容赦なく溺愛する【極上悪魔なスパダリシリーズ】
「人のものに手出すなら、俺の目の前でやってみろ」
彼がこれまでにないほどの怒りに満ちているのは明らかだ。私はたまらず立ち上がり、険悪な雰囲気になってしまったふたりの間に入る。
「待って、千里さん! 泉さんはなにも──」
「つぐみ」
憤りを抑えた低い声で遮られ、びくりと肩が震えた。千里さんは苦しさを交じらせた瞳で私を見つめる。
「お前が泣いたのは俺のせいか?」
「っ、それは……」
しまった、まだ頬が濡れていた。どう答えようかと逡巡したのものの、泉さんが代わりに「そうだよ」と告げる。
「千里がつぐみさんとの関係を終わらせようとしているみたいだから」
それを聞いた千里さんは、はっとした面持ちに変わる。
私は決まりが悪くなって咄嗟に顔を逸らすも、彼の手がそれを阻んだ。私の顔を自分のほうに向け、両手で頬を包んで涙の跡を拭う。その仕草は、思いのほか優しい。
「なら、この涙まで俺のものだ。俺たちはまだ夫婦だろ」
〝まだ夫婦〟……それはすぐそこまで近づいた終わりを意味しているようでもあり、どうにかすれば終わるのを避けられる可能性があるようにも感じられた。