俺様パイロットは契約妻を容赦なく溺愛する【極上悪魔なスパダリシリーズ】

 千里さんたちからカンパニーラジオに連絡はない。おそらくそうするほどの余裕がないのだろう。機体は、乗員乗客は大丈夫なの?

 心臓がドクドクと不快な音を立てている。皆も騒然とする中、部長は強張った表情をしながらも冷静に説明する。


「今、左のエンジンだけで飛行している。機体は落ち着いていて、チェックリストをやりながら予定通り34Lに向かっているらしい。到着は、あと三十分くらいか」


 それを聞きながら、落ち着けと自分に言い聞かせる。集中しなければまたミスを起こす。今、私が担当しているのは千里さんたちの便ではないのだから。


「もしものために消火隊を待機させる。滑走路上で対応にあたる可能性もあるから……」
「羽田に向かっている他機に連絡します」


 部長が言い終わる前に、私はデスクに向き直って対処をし始める。それを見た美紅さんは、少し驚いた様子で目を見開いた。

 エンジン火災だなんて、滅多に起こるものじゃない。どんな不具合が起こるかもわからないし、仲違いしているふたりが息を合わせられるかも懸念される。

 過去に墜落に至った事例もあるのだ。最悪の事態を想像して不安で押し潰されそうになる。でも……。
< 230 / 252 >

この作品をシェア

pagetop