俺様パイロットは契約妻を容赦なく溺愛する【極上悪魔なスパダリシリーズ】
私も腰を上げ、ふたりでエレベーターに向かう。お互いの階を目指す間もたわいない話をして、穏やかな泉さんのおかげで心が安らぐのを感じていた。
そうして二十三階に着きエレベーターを降りる直前、彼はわずかに憂いを帯びた瞳を私に向ける。
「名残惜しいですが、また今度。あなたとはもっと早くに出会いたかった」
──意味深な言葉に、ドクンと心臓が跳ねた。
これもリップサービスなのか本心なのかわからず、ぽかんとしているうちに扉が閉まり始め、「あっ」と小さな声が漏れる。ほどなくして、軽く手を振る彼の微笑みが扉の向こうに消えた。
再び上昇を始める箱の中、私はひとり〝もしもの世界〟を頭の中で繰り広げる。
天澤さんとこうなる前に泉さんと出会っていたら、また違った運命があったのかもしれない。
もし彼が私に好意を抱いてくれたとして、恋愛関係に発展し結婚までいったとしたら、少なくとも天澤さんよりはいい旦那様になるだろう。
そんなたらればを妄想しても仕方ないのだけれど、泉さんがあんなふうに言うから……大人の男って皆ズルい。
「なんかもう、いろいろと私にはレベルが高すぎる……」
止まった階数の表示を見上げ、ため息交じりに呟いた。