俺様パイロットは契約妻を容赦なく溺愛する【極上悪魔なスパダリシリーズ】

 あのときのいら立ちなどどこへやら、すっかり上機嫌になっている単純な自分はさぞかし滑稽だろう。

 しかし、本当にその用件だけだったとは信じがたい。基本女性の扱いに対して面倒臭がりなこの人が、わざわざ電話で伝えなくてもいいことに時間を割くわけがない。

 私は小躍りしたい気持ちを抑え、落ち着いて言葉を返す。


「お口に召してよかったです。でも用件は絶対それだけじゃないでしょう。ほかには?」
「ないよ」
「嘘だ」


 そんなやり取りを数回繰り返し、結局なんの用だったのかはわからずじまいだった。天澤さんの中でその用は解決したみたいなのでいいのだろうが、こちらはいまいちスッキリしない。

 ただ、彼が電話をくれたのも、それが心地よく感じたのも事実だ。曖昧な記憶の中でひとつだけ覚えているひと言は、やっぱり夢だと思うけれど。

『お前の顔が見たくなる』……なんて、彼にしては甘すぎるもの。

 でも、ただ同居を始めたときからすれば少しずつ変わってきている。もう一度仕切り直して、私たちなりの夫婦関係を築いていこう。

 ふたりで初めての食事は純粋に楽しくて、私は激務の疲れなどすっかり忘れていた。


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