BLACK KINGDOM -夜明けまで、熱く愛して-
言葉になりきれない声が吐息といっしょに零れると、じんわり涙が浮かんできた。

するとそれに気づいたのか、わずかに顔をあげた千広くんが、ぴたりと動きを止めて。



「……──」


1秒、2秒、3秒。しばらく見つめたあと、バツが悪そうに視線を泳がせる。

スカートの乱れた裾を直し、千広くんはゆっくりと立ち上がった。


「嫌だったな。……もうやんねーよ」


ぽん、ぽん、と。

わたしの頭を優しく撫でて、離れていく。


「っ、……」


まるで子ども扱いなのに、おかしいくらいにどきどきして苦しい。


ていうか違うのに。

涙が出たのは嫌だったんじゃなくて、恥ずかしかったから……。



「行……」

かないで、と言葉にこそならなかったものの、服を掴んで引き止めてしまった。



「なんだ」

「……」


ええと、まずい。
わたし後先、何にも考えてない。


「……あやる?」

「あ……そうだあの、ごめんなさい。相手は千広くんがいいとか、勝手なこと言って」
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