BLACK KINGDOM -夜明けまで、熱く愛して-

真っ先に疑ったのは毒薬。

冽──だけじゃなく、この街に住む人間は自分の利益を最優先に動く。


いくら冽が黒帝の幹部であろうと、例えば外部から“松葉千広を殺せ”という依頼が流れてきたとして、
俺を殺すことで得られる利益が黒帝にいることよりも大きければ迷わず引き受ける。

当たり前のハナシ。


ただ、冽が俺を殺すとなれば、あまりにもリスクが大きすぎる。

──俺が松葉家の人間だから。


この街で松葉を敵に回すことは死に直結する。

よりによっては死よりも耐え難い苦痛に落とされる。

本人だけでなく、周りの人間もただでは済まない。

今屋敷 冽は、かつて一緒に暮らしていた家族だけは誰よりも大切にしていたはずだ……と。

そのとき、たしかに俺は思い直した。

けれど。



『千広クン、全部飲んじゃった?』

『……ああ。お前が全部飲めって言ったんだろ』


──嘘だ。
あの薬は結局、体に入っていない。

飲むふりをして、1錠だけシャツの袖口から中へ落とした。
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