BLACK KINGDOM -夜明けまで、熱く愛して-
「ん。頑張ったな」
………、………だから、もう、どきどきすることはやめてほしいのに。
今日は特に心臓が忙しかったから、これ以上は困る。
──きゅ、唇を結んだ、そのとき。
「松葉君。ちょっといいかな」
廊下の前方から声がかかった。
「絹、あやると先に会場行ってろ」
「はいよ」
離れていく背中をぼんやり見つめる。
スーツを着た男性と並ぶ姿が様になっていて、すごく素敵だし……すごく寂しくもある。
「安斉サン行こっか」
「うん」
「……あ、ワリ。会議中電話入ってたっぽい。一瞬折り返すから、そこで待っててもらってい?」
「わかった。ゆっくりいいよ」
マナーモードを解除したらしい絹くんが、バルコニーの方に歩いていく。
わたしもスマホを確認しようかなと、制服のポケットに手を伸ばしたところで、はっとする。