BLACK KINGDOM -夜明けまで、熱く愛して-
「オレずっと心配だったんだよね、安斉が父親に捨てられたって聞いて」
「………──、」
──捨てられた。
その文字が頭の中を一瞬で侵していく。
「ちが……、お父さんは――」
「違わないでしょ。娘をこんな街にひとり置いていくなんて誰がどう見ても最低な親だ」
――中学に上がると同時に、片親であるお父さんの仕事の都合でこの街に来た。
そして
わたしが中学を卒業すると同時、お父さんはこの街で女の人をつくって家を出ていった。
───『すぐ迎えに来るから』と、言い残して。
「安斉、好きだよ。ヨリ戻そう」
「っや……離して」
言葉とは裏腹に、無理やり抱きしめてくる腕はちっとも優しくない。
どうしよう、自分の力じゃ拒めない。
もう少ししたら絹くんがバルコニーから戻ってくるはずだから、それまでどうにか……。
「お父さんの言葉を信じて待ってたときは、たしかに辛かったけど……、今はもう、大丈夫だからっ。大河くんに居場所を与えてもらう必要なんてない」
「大丈夫って泣きながら言われても説得力ないよ。──それにさ」
トーンが急に落ちて、ぞくりと寒気を覚える。
「オレのいうこときかないと、あとから後悔する羽目になると思うけど……いーの?」
その声が耳元で響けば、嫌な記憶が強引に呼び覚まされる。