BLACK KINGDOM -夜明けまで、熱く愛して-

千広くんが振り向くのがわかったから、反射的にうつむいた。


「お前さ、昔からすぐどっか行きそーで怖かったんだよ」

「……え?」


聞こえなかった。


「わたしが、……なに?」

「だから、俺のそばからいなくな……──」


いなくな……?


待ってみても返事はこない。

代わりに、離れかけていた手が再び絡んだ。


校舎から外れた場所。
いつもより静かに感じる夜。

世界に、ふたりしかいないみたい。



「……るなよ、もう」


最後の声は、風の音にかき消された。


あまりにも儚く消えていったから、すぐそばを歩いているはずなのに、急に闇にひとり置き去りにされたかのうような不安が襲う。


風が千広くんを攫っていったんじゃないかとか、ありえない、妙な錯覚に陥って。

手のひらの輪郭をそっとたしかめる。


伝わる体温は、数年前と変わらずあたたかい。

懐かしい熱にひどく安心した。同時に、少しだけ泣きたくなった。

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