違いませんが、 違います‼︎
第1章
「千枝ちゃん、本当に申し訳ない」
出勤前、タイムカードを押す直前に大将に呼び止められ謝られた。
店を閉めるらしい。
元々そんな噂はバイト内で出ていた。既に皆それぞれ次を探していた。もちろん私もだ。
次は飲食を辞めて、正社員になりたいと目論んでいたが、なんせ私には学歴がない。
高校時代から換算して、飲食でのバイト歴しか誇るモノが私にはないのだ。
ハローワークのおじさんも、派遣会社のお姉様も、「短期だったらあるんだけど」と口を揃えて言う。
それでは生活が出来ない。
掛け持ちで生活を保ちながら、どこかで出会って結婚して家に入りたい。
誰かの金で、生活を気にせずに暮らしたい。
鏡に映る自分を見てため息が出る。
これじゃ無理だな。
今日は、ため息が止まらない。
「元気ないね」
常連さんの進藤さん声をかけられた。
斉藤さんは陽気でダンディなおじ様。一人で、奥様と、毎週やってくる常連さん。
一人で来る時のお供は、大将との会話と【山神 サト】の新刊。
私も大将も【山神ファン】でいつも3人で盛り上がっていた。
大将とも家族ぐるみで仲が良い。と言う事は、話を聞いているはず。