違いませんが、 違います‼︎


項垂れながら「ワカリマシタ」と斉藤さんの横を通り過ぎる時

「大丈夫ですよ」

斉藤さんが優しく肩を叩いてくれた。

顔を上げると三枝さんもいて「大丈夫」と微笑んでくれた。

言わなくても私の気持ちを汲んで、励ましてくれる。

周りの人もウンウンと微笑んでいる。
泣きそうだ。

胸を張り「行ってまいります」と敬礼をする。
「行ってらっしゃい」と返ってくる。

こんな最高の職場で働けた事を誇りに思おう。
恥じる事はない。
私の5年は無駄ではなかったのだ。


トントン

ノックをし「坂本です」と名乗れば、すぐに扉が開いた。

奥の机に須藤さんがいて、その斜め後ろに葉山さんが立つ。

「明日から来なくていいです。ここでの経歴は今後使わないでください。我が社にあなたの様な人がいたなどと外部に知られたら」

最悪の状況を思い浮かべた。



「お待ちしていました」

ジャケットを脱ぎ、腕捲りをしている葉山さんがいた。

引っ越しですか?模様替えですか?
唖然としている私に

「早速ですが、その棚のファイルを段ボールに詰めて下さい」

 葉山さんが指示を出す。


一体どういう事だ?

疑問に思いつつも言われた作業に精を出す。
“誰にでも出来るけど、時間がなくて出来ない"
それが私の仕事だ。

夢中で作業をこなしていると、葉山さんが席を外す。

須藤さんがいてもいなくても、葉山さんは忙しそうだ。

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