違いませんが、 違います‼︎
周りで聞いている人は「猿芝居」とすぐにわかるし、通常の葉山ならば、鼻で笑うレベルだったに違いない。
だけど、時折不安そうな顔をする千枝に心当たりがある葉山には、猿芝居を見分ける余裕がなかった。
「お別れの挨拶もさせてくれないなんて、千枝ちゃんらしい」
わざとらしく染み染みする斉藤。
それに同調する三枝を始めとする社員達が次々に声を上げる。
「女性には態度より言葉らしぞ」
壮大な茶番に参加を表明する須藤に社員の注目が集まる。
実体験をした方の言葉は重い。
「今日はもう帰れ。月曜日にいい報告を待ってる」
須藤が葉山の方に手を乗せる。
「専務」
感銘を受ける葉山。
「専務って、こういうのに乗るタイプだったんだ」
誰かが小声で言ったとか、言わなかったとか
誰もが心の中で思ったとか思わなかったとか
スマホを取り出し、どこかに電話をかける。
相手は出ないようだ。
すぐに別の相手に電話をかけ始めた。
少しだけ話すと、こちらを見る。
ありがとうございます
と深々と頭を下げた。
そして、キリッとした顔で須藤を見る。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。月曜にお迎えに参ります」
気にするな
と須藤は手を上げる。
「それと、奥様からこれ以上はいらないとご連絡頂きましたので、何も買わずに真っ直ぐと帰宅して下さい」
にっこりと笑う葉山。
チッと舌打ちが聞こえた。
「では、お言葉に甘えて帰宅させて頂きます」
颯爽と電話しながら去る葉山。
なんだろう?寒気がする。その場にいた誰もが、両腕を摩った。