ANOTHER WIND~もう一人の主人公~
またなんかぼそぼそ話して、くっくっ笑っている。

「…女って、あぁいう感じだよな」
ぼそっと一人が言った。
「よせ、ひどく女に失礼だ」
また一人がぼそっと言った。
「そうだな、ごめん、女」
「女って…お前何様だよ」
「少なくともおれは絶対に女に屈するつもりはない」
「どゆこと?」
「結婚しても、給料はフィフティフィフティ」
「小さいな」
くっくっく。
向こうに対抗してなのか、こっちもぼそぼそくっくになっている。

「あれ」
「どしたん?」
「翔来てないんじゃない?」
「あ、ホントだね」
4時間目、日本史の授業終わった後も、端っこで勉強してたあいつがいない。

その翔という少年を、タスクは少し気にしていた。
完全内向的、趣味なことになると語っちゃう痛い子。
そういう面を心配してた、という訳ではなく、今までの授業は寝倒してきた彼が、日本史の、今の単元である関ヶ原の合戦周辺になってから活き活きと勉強を始めたのだ。

そう、タスクも歴史が好きだ。
何よりもその織田信長の頭角から、徳川家康が天下をとった大阪夏の陣あたりが。

あいつなら話せる気がする…ずっとそうわくわくしていたのだが、相手はクラスから浮いた存在、一部の人間としか会話出来ないような人間である。
『えー、タスク、あいつと仲良いのー?』
『こんな奴に発言権預けらんねぇよー』
そんな空気になるのが、嫌だった。
だから余程のきっかけさえなければ、“気にかけておく”程度に止めておくはずだった。

「あれ?お前ら翔と一緒じゃねぇの?」
後ろからぼそぼそ聴こえる。
「タスクさーん、いっちゃいますかー」
「さっきあんなに軽蔑してたのに、いっちゃいますかー」
気にせず続けた。

「あいつどうしたの?」
「さぁ、遅れて来るってよ」
「そか、じゃ俺呼んでくる」

別にそんなはずじゃなかった。
クラスのリーダーとして、教室に向かっただけだった。

――こんな余程、聴いたことない。
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