紳士な御曹司の淫らなキス~契約妻なのに夫が完璧すぎて困っています
新婚旅行
翌日、仕事を終えたわたしは、十和子さんが泊まっていたホテルの部屋にカードキーを使って入る
と、目に付く荷物を旅行かばんに詰めて部屋を出た。行き先は十和子さんが入院している病院だ。
入院に必要な荷物を届けに行くと、病室にいた十和子さんが怪訝な顔になる。
「何しに来たの?」
「荷物を届けに来ました。化粧水とか着替えとかないと不便ですよね? あと、ホテルのカードキーも」
十和子さんが呆れ顔になる。
「あなた馬鹿じゃないの? 自分が何されたのか、忘れたの?」
「危うく薫さんを奪われそうになったことですか?」
十和子さんは、はっとなり、瞼を伏せた。
「……薫が結婚するなんて思わなかったの。それもまさかあなたみたいにどこにでもいるような人とだなんて。プライドが傷ついたわ。だからムキになってたの。……あなたには悪いことをしたと思っているわ」
素直な謝罪に目を瞠った。わたしはおかしくなって笑った。
「おかげで薫さんをまた誰かに取られないように、頑張らないとって思いました。だからいいんです」
「本当に馬鹿な人」
十和子さんが苦笑する。
「でも、今ならどうして薫があなたを選んだのか、わかる気がするわ」
十和子さんは穏やかに笑っていた。
白金のマンションに帰ると、カーテンを開け、ベランダに立って空気の入れ替えをした。一週間ほどの不在だったのに、まるで何年も過ぎ去ったような気がしてしまう。ふとダイニングテーブルを見ると、置手紙がしてあった。
――明日の朝、この新幹線に乗ってください。ぼくも現地で合流しますから。
手紙と一緒に新幹線のチケットが置いてあった。行き先は京都だった。
「そういえば、明日から連休を取ってたんだっけ」
せっかくの新婚旅行なのに、あまりにも慌ただしすぎてうっかり失念していた。わたしはシャワーを浴びて部屋着に着替えると、旅行の準備を始めた。そこで重大なことに気が付いた。
「新品の下着がない!」
二人で旅行に行くのだから、間違いなくそういうことになるはず。さすがに二人でお泊りして何も起きなかったら、離婚を考える案件だ。朝、八時の新幹線なので、近場で用意する時間はない。わたしはスマートフォンを操作して京都駅の近くに下着を売っている店がないかを調べた。幸いなことに京都駅のデパートに売っていることを確認できたので、ほっとした。
旅行前夜は次の日が楽しみすぎて、なかなか眠れなかったのに、当日は早くから目が覚めてしまった。まだ新幹線の時間までだいぶある。ちょっと早いけど、わたしは品川駅まで電車で出ることにした。
駅に着くと本屋が開いていたので、京都のガイドブックを買った。カフェでお茶をしながらガイドブックを読んで時間を過ごした。新幹線の到着まであと十分となったときに、わたしは荷物を持って改札をくぐった。
新幹線に乗ったあとも、わたしはガイドブックに夢中になった。
わたしは京都に行くのは始めてだった。
働き始めて京都に行ったことがないと言うと珍しがられた。小学校の修学旅行先はディズニーランドだったし、中学生のときは北海道だったし、高校にいたってはシンガポールだった。なので、実は京都には強い憧れがあった。ガイドブックによると今は十一月の中旬だから、ちょうど紅葉が見ごろの季節だ。紅葉を背景に写真を撮ったらさぞかし美しいだろうと思った。