紳士な御曹司の淫らなキス~契約妻なのに夫が完璧すぎて困っています
「夜間のライトアップとかも素敵だな」
こんな感じで、始終浮かれまくっていたので、あっという間に京都についた。時計は十一時近かった。
「薫さんとお昼くらいから合流できるのかな?」
そこで初めて、薫さんからずっと連絡がないことに気づいた。てっきり京都に着いたらすぐに会えると思っていたので、心配になった。前に連絡がないことをお互い気にして、遠慮した末にすれ違ってしまったので、今度はわたしはすぐにラインを送った。
――京都駅に着きました。いつごろ合流できますか?
返信はすぐにあった。
――すみません。知りあいの乗った飛行機が遅れていて、まだ東京です。予約した旅館の住所を送ります。チェックインは十六時からです。
わたしはびっくりしてしまった。まさか旅先で独りになるなんて思ってもみなかったからだ。
仕事が忙しいのか、それか十和子さんのために動いているかのどちらかだろうとわかっていたが、少しだけ寂しくなった。
わたしは気を取り直して、デパートで買い物を済ませると、清水寺を観光することにした。
京都駅からバスに乗って五条坂で降りた。清水坂を登る途中に、お蕎麦屋さんがあったので、遅めの昼食にニシン蕎麦を食べた。甘く味付けされたニシンが蕎麦のだしとからみあっていて、とても美味しかった。ふと他の席を見ると、修学旅行生らしき高校生や家族連れがたくさん席に座って蕎麦を味わっていた。一人なのはわたしだけだった。
ゆったりとした坂道を登ると初めて見る清水寺の光景に圧倒された。そして清水寺から見下ろせる京都市街の光景も素晴らしかった。清水の舞台を一人で歩いていると、横から肩を叩かれた。驚いて顔を上げると、外人と思しきカップルに写真を撮って欲しいとジェスチャーで頼まれた。わたしは笑顔で頷くと、手渡されたカメラで、鮮やかに紅葉した木々を背景に最高の笑顔を見せる二人を撮影した。カップルは、満足そうに頭を下げて去っていった。
「一人だとやっぱりつまらないな……」
そう言いながらも、わたしは三寧坂、二寧坂、そしてねねの道を通って高台寺にやってきた。ここがかの豊臣秀吉の正妻ねねが夫の菩提を弔うために創建したという寺院だ。さすがに歴史に疎いわたしでも、豊臣秀吉の名前くらいは知っている。薫さんならさぞかし詳しいだろうと思った。