紳士な御曹司の淫らなキス～契約妻なのに夫が完璧すぎて困っています

　高台寺の様々な場所からわたしは紅葉を楽しんだ。ここの庭は池泉回遊式庭園といって、広い池泉を中心に、中島、四阿などを設け、舟遊び・納涼・散策など、庭園をいろいろな角度から鑑賞し楽しめる造庭技法が取り入れられているそうだ。池の水面に様々な木々が写り込むさまがとても美しかった。
　
　スマーフォンで時間を確認するとすでに十六時を過ぎていた。夕暮れも近づいているので、旅館に移動することにした。
嵐山に向かうと、十分ほど歩いて旅館を見つけた。チェックインを済ませると、部屋に案内された。そこは離れにある温泉のついた部屋だった。室内は和と洋がうまく組み合わさっていて、和室にベッドが置かれていたけど、違和感がまるでなかった。窓からは素晴らしい日本庭園を見渡すことができた。


「わあ、温泉だ」


　風呂場に行き思わず手でお湯に触れた。それが何よりうれしかった。
　
　スマートフォンにはまだ連絡は来ない。
　
　わたしはスマートフォンを脱衣所に置くとさっそく温泉につかった。身体の芯から温まる心地がした。二十分ほどで上がり、わたしは浴衣に着替えた。するとまるでわたしの行動を見計らったように、仲居さんが部屋にやってきた。


「お食事はお運びしてもよろしいですか？」


　時間を確認すると夜の七時を過ぎていた。


「もうちょっと待ちます。すみません」


　連れが来ていないことを気の毒に思ったのか、仲居の女性は何も言わずに去っていった。

　わたしは薫さんにラインを送った。

　――夕食の準備ができているみたいです。まだ、かかりそうですか？

　しかし、今度は返信はなかった。それどころか既読にさえならない。思い切って電話をかけてみたけど繋がらない。わたしはだんだん不安になってきた。

　一時間後、仲居の女性が再び現れ、これ以上、夕飯の時間を遅らせることはできないと言われたので、しかたなく二人分の料理を運んでもらうことにした。京野菜をふんだんに使った料理の数々にわたしは目を奪われた。箸をつけるとあまりに絶品で幸せな気分になった。

　わたしは遠慮なくお酒を注文することにした。最初はビールをそしてその後は冷酒を頼んだ。料理がなくなるころには、わたしはすっかり酔っぱらっていた。けれど気が付くとわたしは泣いていた。寂しくて薫さんが恋しくて、どんどん涙が出た。


「薫さんの馬鹿！」


　一人で怒鳴りながら、冷酒を口にし続けた。そして、なんだか眠くなったわたしは、ベッドにダイブして、泣きながら眠りについた。