紳士な御曹司の淫らなキス~契約妻なのに夫が完璧すぎて困っています

 次の日、午前八時にチェックアウトした。荷物は郵送で白金のマンションに送る手はずになっていた。
 
 タクシーで祇園まで行くと、わたしと薫さんはそれぞれ和装をレンタルした。これも薫さんが予約してくれていたのだ。そして二人で花見小路通を歩いた。上を見上げると秋晴れの爽やかな空が広がっていた。薫さんの和装は本当に色気がだだもれでとにかくやばかった。それなのに、薫さんはわたしを見ては「可愛い」とか「とても似合っています」を繰り返すので、こっちのほうが恥ずかしくなるほどだった。


「あと一日くらい休みが取れたらよかったのですが……」


 帰り際、薫さんはそんなことを言っていた。離れがたい気持ちはわたしも一緒だった。

 京都駅で帰りの新幹線を待つ間、わたしと薫さんは、お土産物を買うのに忙しかった。京都駅の中はお土産物屋さんがひしめいていた。わたしは職場用に生八つ橋を買い、響子さんたちのために、茶団子を選んだ。そして実家に持ち帰る用に扇子を二つ買った。薫さんは朝ご飯に出すための漬物の試食に忙しかった。

 夕方、白金のマンションに帰ると、部屋中の窓を開けて、空気の入れ替えをした。十一月の寒風が肌に突き刺さるようだった。

 薫さんが晩御飯を作ってくれている間に、わたしはお風呂を洗ってお湯を沸かした。その夜は薫さんが無水鍋で作ったミートソースを使ってパスタを食べた。トマトの風味がしっかりと味にしみていて、とても美味しかった。就寝前、いつものように二階の自分の部屋に帰ろうとすると、薫さんに呼ばれた。


「紫さん、今日からこっちで一緒に寝ませんか?」

「あ、……はい」


 もうすでにすっぴんも見られているし、恥ずかしいことはなにひとつないのに、やっぱり照れ臭かった。わたしは枕を持っていそいそと薫さんの寝室へと向かった。その日の夜は、お互いに疲れていて、手を繋いだまま眠った。









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