紳士な御曹司の淫らなキス~契約妻なのに夫が完璧すぎて困っています

 妊娠を自覚した途端に、つわりと呼ぶべきものが始まった。つわりは重い人もいれば軽い人もいるという。わたしはたぶん軽いほうだろう。ご飯はそこそこ食べているし、気分が悪くても、それを顔に出さない程度に仕事ができているからだ。


「樫間さん、本当におめでとう」

「ありがとうございます、店長」

「産後はもちろん復帰してくるんでしょう?」

「はい。そのつもりです」

「赤ちゃん生まれたら、絶対に会いに行きますね」


 小沢さんが言った。


「うん。待ってるね」


 周囲が幸せムードの中で、わたしはひとつだけ引っかかっていることがあった。

 薫さんの様子がおかしいのだ。それは前なら気づかなかっただろう、些細な違和感。一緒に暮らし
ているからわかったのだ。薫さんがわたしと話すとき、微妙に目線を外すことに。

 仕事を終えて家に帰ると、途端にどっと疲れがでてきた。つわりの影響もあり、体調が悪いのだ。わたしはソファの上でそのまま眠ってしまった。


「……紫さん、紫さん」


 薫さんに声をかけられてわたしは目を覚ました。


「紫さん、こんなところで寝たら風邪を引きますよ」

「あ、すみません。疲れてしまって……」


 薫さんがそっとわたしの身体ごと抱き上げてくれた。びっくりしていると寝室に運ばれ、ベッドの
上に降ろされた。


「ご飯ができるまでここで待っててください。チンジャオロースですが食べれそうですか?」

「はい。大丈夫です」

「じゃあ、できたら呼びますね」


 しばらくベッドに横になっていると、いい匂いがキッチンから漂ってきた。途端にお腹が空いてくる。










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