紳士な御曹司の淫らなキス~契約妻なのに夫が完璧すぎて困っています
「できましたよ」
呼ばれてダイニングテーブルに移動すると、チンジャオロースと野菜サラダ、そして溶き卵のスープが並んでいた。
「いただきます」
わたしは箸を動かしながら、たくさん食べた。太らないことを願いたい。
「そうだ。次の検診、薫さんも来ませんか?」
「え、産婦人科に、ですか?」
さすがに微妙な顔をしている。男の人が居づらい環境なのはなんとなくわかる。けれど、それ以前に、薫さんがわたしから視線を逸らすのをはっきりと見た。わたしは覚悟を決めて口を開いた。
「薫さん、もしかして、子供ができたこと嬉しくないんですか?」
直球で訊くと薫さんが困惑した顔になる。
「……いえ、そういうわけでは……」
「嘘! この間から、ずっと様子が変ですよ」
薫さんはため息をついた。
「……ちょっと怖くなったんです」
「怖い?」
「ぼくは幼少期、少し複雑な環境に置かれていたので……」
それは響子さんから聞いて知っていた。響子さんは薫さんが生まれたあと、夫が浮気していることに傷ついて荒れ、薫さんを放置して遊びまわっていたと言っていた。間違いなくそのことだろう。
「……本当にちゃんとした親になれるか怖くなったんです」
わたしはほっとした。
「なんだ、そんなことか」
わたしが安堵すると、薫さんが怪訝な顔になる。
「……どうして怒らないんですか? もっと怒ると思っていたのに」
「わたしは普通の親になれる自信があるからです。薫さんは隣で見守ってくれればそれで充分です。赤ちゃんと薫さんのことはわたしが幸せにしますから、ご心配なく」
ちょっと得意げに言うと、薫さんがふっと笑った。
「あなたには敵わないな」
そう言いつつ、薫さんは幸せそうな笑顔を浮かべていた。