紳士な御曹司の淫らなキス~契約妻なのに夫が完璧すぎて困っています


「お誕生日おめでとうございます、樫間さん」

「……へ?」

「あなたへの贈り物として買って来たんです。受け取ってもらえませんか?」


 言われて初めて今日が自分の誕生日であることに気づく。

 緑川さんが片思いをしている女性にあげるはずのチョコレートがわたしの目の前にある。驚きのあまり呆然としていたが、次の瞬間、わたしはみるみる耳を赤く染めた。


「あの、その、間違いがあったらすみません。……もしかして、わたし口説かれてますか?」

「いやだな。今ごろ気づいたんですか? 案外鈍いんですね」


 緑川さんはにこりと人を食ったような笑みを浮かべた。

 ふと人の気配を感じて振り返ると、店長と小沢さんがにやにや笑いながら、この光景を眺めている。どうやら二人は以前から緑川さんの気持ちを知っていたようだ。誕生日を教えたのも店長に違いない。


「樫間さん、今日はもう上がっていいからね」

「え、でも店長仕事がっ!」

「誕生日を祝ってもらうんでしょう?」

 どうやら事前に根回しもされているらしく、店長と小沢さんは気持ちよくわたしを送り出そうとしている。


「そんなの聞いてません!」

「あれ、いやだな。ちゃんと言ったじゃないですか。今日はあなたの時間をいただきたいと」

「!」

「お世話になったし、約束なら守らないといけませんね、先輩」


 小沢さんが言った。一人あわあわしているわたしの荷物を店長が渡しにやってくる。


「じゃ、行ってらっしゃい。気をつけてね」


 わたしは諦めのため息をついた。
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