紳士な御曹司の淫らなキス~契約妻なのに夫が完璧すぎて困っています
side 薫
 まさか自分が結婚することになるとは思わなかったと薫は思った。強引な母の見合い話を退けるために、最近、話を避ける方法ばかり考えるようになっていた。昔から母のことは苦手だった。結婚してすぐに薫を授かったものの、父に愛人がいると知って、怒った母は赤ん坊だった薫を置いて夜遊びに出かけるようになっていた。物心ついてから両親との楽しい思い出は一切ない。だから結婚に夢を見たことは一度もなかった。


「お前って冷たいのな」


 高校生のとき、仲のよかったクラスメイトにそう言われた。三カ月付き合った彼女と別れたばかりのときだった。自分以外の女子と話すのはやめてほしいと言われたから、面倒くさくて別れたと話したのだ。共学でクラスの半分は女子なのだから、話をするなと言われても無理に決まっている。そんなわがままをいちいち聞いていたらきりがないと思っただけなのに、冷たいと言われてしまったことに少なからずショックを受けていた。自分はおかしいのだろうかと不安になった。まともじゃない親元で育ったから、自分はまともじゃないかもしれないと思った。
大学に入ってまた何人かと付き合ったけれど、三カ月と持たなかった。 
 
 そこでも幾人かの彼女に、冷たいと言われた。だから、しゃべり口調を変えて、穏やかなふりをしてみたけど、やっぱり冷たいと言われてしまう。そうしているうちに、彼女を持つことが煩わしくなり、誰とも付き合うのをやめた。





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