紳士な御曹司の淫らなキス~契約妻なのに夫が完璧すぎて困っています
婚約

「おはよう、樫間さん」

「おはようございます、先輩」


 十二時になり、店長と小沢さんがお店にやってきた。わたしは左手の薬指を右手で隠した。

 しかし、目ざとい小沢さんの前で隠しとおすことはできなかった。


「え、先輩、それって婚約指輪じゃ……」


 小沢さんが強引にわたしの左手を持ち上げ、大粒のダイヤが輝く指輪をじっと見た。


「これ、ハリーウィンストンじゃないですか!」

「この指輪、そんなに有名なの?」


 宝飾品には疎かったので聞き返すと、小沢さんがスマホを素早くタップして、わたしがはめている指輪の画像を表示した。その下にはわたしの予想をはるかに上回る金額が記載されていて、眩暈がした。緑川さんの金銭感覚はいったいどうなっているのだろうか。さすが腐っても御曹司だ。

 店長が好奇心に瞳を輝かせながら尋ねてくる。


「樫間さん、結婚するの? 相手は誰?」


 ここまでバレて白状しないわけにはいかなかった。わたしは緑川さんが千海の御曹司であることや、結婚にいたるまでの成り行きを省いて事情を説明した。


「は、緑川さんと結婚⁉ ちょっと早くない?」


 二人とも度肝を抜かれた顔をしていた。


「え、二人って実は前から付き合っていたとか?」

「違います」


 わたしはどう答えていいか、わからないまま口を開いた。


「その、まあ、いろいろあって。けど結婚を決めた一番の理由は、そろそろ両親を安心させてあげたかったからです」

 父の病気のことを知っている店長と小沢さんは、納得した顔になる。


「式はいつなの?」


 店長に訊かれた。


「まだ決めてません」






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