紳士な御曹司の淫らなキス~契約妻なのに夫が完璧すぎて困っています
「樫間さん、この間はごめんなさい」
その日の夕方、須藤さまがわたしに謝りに来た。やはりあの書き込みをしたのは彼女だったのかと思っていると、須藤さまが言った。
「彼に言われたんです。お世話になった人に失礼なことをしたと思ったら謝らないとだめだよって」
「彼?」
すると須藤さまは照れくさそうに笑った。
「わたし、彼氏ができたんです」
須藤さまの話によると、彼氏とは会社の飲み会の席で知り合ったという。真面目でさえない人だったけれど、須藤さまの悩みを熱心に聞いてくれる姿に心打たれたのだという。また話したいと思っていたときに、彼の方から連絡先を聞かれ、それから二回デートして付き合ってほしいと言われたのだという。
「それが彼ったら、わたしのために高価な鉄板焼きのお店に連れて行ったりするから、無理をしているんじゃないかと心配になったんです。半分払おうとしてもいいって言われるし……。彼の誠意は十分伝わったから、次からは無理をしてほしくないって言って、昨日は回転寿司のお店に行ったんです。なんか、彼と一緒にいるだけで、もう幸せで、お寿司もとても美味しかったんです。彼、わたしが会社で頑張っているところをずっと見てくれていたらしくて……。一緒にいるとときめくっていうよりほっとするんですけど、こういうのもいいなって思っちゃって」
そこで須藤さまは我に返った。
「ごめんなさい。自分の話ばっかりして。謝りに来たのに……」
須藤さまが落ち込むので、わたしは急いで手を振った。
「いいえ、須藤さまがお幸せならそれで充分です」
「ありがとうございます、樫間さん。またお世話になりに来ますね」
須藤さまは花のような笑みを浮かべた。デートで回転寿司屋に連れて行かれたことを愚痴っていたころとはまるで違う温かく優しい笑顔だった。彼女が帰ったあと、小沢さんがぽつりと言った。
「あの書き込み、須藤さまじゃないみたいですね」
わたしも同感だった。
書き込みがされた時期に、須藤さまは彼と出会い、デートしていたのだから、あんなネガティブな書き込みはしないだろうと思った。