紳士な御曹司の淫らなキス~契約妻なのに夫が完璧すぎて困っています
仕事を終え、薫さんに呼ばれて白金のマンションに寄ると、薫さんは帰宅していた。
薫さんが真顔になる。
「……実はあの書き込みの犯人がわかったんです」
「え、誰だったんですか?」
「このだら母というハンドルネームを使っていたのは、足立静香という女性でした。聞き覚えはありませんか?」
しばらく考えてわたしはあっとなった。
「一ヵ月くらい前にいらっしゃったお客さまで、これからデートだと張りきっていました。まさかあの方だったなんて……」
「どうします? 被害届を出しますか?」
わたしは頭を振った。
「いいえ、そんなのはいいんです。書き込みはあれ以来ありませんから」
「そうですか。実はもうひとつ面白いことがわかったんです。サイトに書き込みをしたスナイパーSって覚えていますか?」
「はい」
スナイパーSはわたしを庇ってコメントしてくれていた人だったので記憶に残っていた。
「そのハンドルネームの人は須藤明日菜さんという女性でした」
「え、あれ須藤さまだったんですか?」
驚いた。そしてあんなことがあったのに、陰で支えてくれた須藤さまには感謝しかない。
「……よかった」
「おそらく彼女も、喧嘩を売るような真似をして申し訳ないと思ったんでしょう。だから余計に庇おうという気持ちになったんでしょうね」
わたしは報告があることを思い出す。
「あ、そうだ。実は須藤さま、恋人できたそうです。今日、謝罪に来てくれたときに嬉しそうに話してくれました」
薫さんはにこりと笑った。
「そうですか。うまくいって何よりです」
訳知り顔での言いまわしが気になった。
「薫さん、何か知っているんですか?」
「実は紫さんが落ち込んでいた次の日に部長に頼んで、須藤さんが働いている部署に彼女を想っている男性がいないかチェックしてもらったんです。すると神林という男性社員が好意を寄せているようだと聞き、おぜん立ての飲み会を開いて、二人が接近するように仕組みました。ぼくも彼に一度会いましたが、彼は品行方正で誠実な人間です。きっと須藤さんを幸せにしてくれますよ」
わたしは嬉しくて泣きたくなった。薫さんの思いやりが嬉しかった。
「薫さん、ありがとうございます」
「どういたしまして」
薫さんはにっこりと笑った。