紳士な御曹司の淫らなキス~契約妻なのに夫が完璧すぎて困っています
結婚
十月に入るころ、わたしは薫さんのマンションに引っ越した。わたしが一生懸命働いて買った冷蔵庫や洗濯機、オーブントースターは薫さんの家にもあるので処分する必要があったけど、テレビやチェストなどは薫さんが用意してくれた部屋に置くことができた。
婚約しているとはいえ、男の人と一緒に住むなんて初めての経験だった。
引っ越しのために、わたしは火曜日と水曜日に休みを取っていた。薫さんもわたしに合わせて休みを取ってくれた。
引っ越し業者の手で荷物が運び込まれ、荷解きを終えるころ、すでに外は暗くなっていた。
「せっかくですし、お寿司でも食べに行きましょうか」
「わあ、お寿司大好きです」
「では行きましょう」
薫さんの行きつけだという寿司屋は、こじんまりとしたお店で、カウンター席が八席あるだけだった。
「へいらっしゃい」
大将が気持ちよくわたしたちを迎えてくれた。
カウンターに座ると薫さんが言った。
「おまかせでお願いします」
「はいよ」
それからコハダ、ホタテ、甘エビ、かつお、いくらなどの寿司が次々とカウンターに置かれた。回らないお寿司屋にほとんど行ったことのないわたしは、その美味しさに舌鼓を打った。
「うん。どれも美味しい。最高!」
ついガッツポーズを取ると、大将が笑った。
「緑川のぼっちゃんもようやくなんだね」
「……ええ、まあ」
冷酒を飲みながら、薫さんはちょっとだけ照れくさそうにしていた。
「女性をこの店に連れてくるなんて初めてだからびっくりしたよ。特別な相手だってすぐにわかったよ」
薫さんが言った。
「実は今度結婚するんです。また二人でお邪魔をしにきますから」
「おお、いつでも大歓迎だよ」
美味しいお寿司を食べて口当たりのいい冷酒を飲んで、わたしはふわふわした心地で家に帰った。
翌日は大安吉日だったので、婚姻届けを提出するために役所に行った。これでわたしは正式に緑川紫になったのだ。その日は、そのまま買い物に向かった。二人で使う箸や食器を選ぶためだ。わたしがマグカップを選んでいると、薫さんはとある鍋をじっと見ていた。
「その鍋が気になるんですか?」
「ええ。この鍋は無水鍋です」