紳士な御曹司の淫らなキス~契約妻なのに夫が完璧すぎて困っています
「無水鍋?」
「とくにこの商品は、保温性や密閉性に非常に優れ、栄養を逃さず素材の旨味を最大限に引き出します。水を一滴も加えず、素材からでる水分だけで調理する無水調理ができる鍋なんです。――これまでは一人暮らしだったから必要ないかと思ったんですが、紫さんと一緒なら、使い道がたくさんあるかなと思って」
「……薫さん、本当に料理が好きなんですね」
「料理をしている間、無心になれるんです。その瞬間が人生で一番充実しているとさえ思います。――紫さん、カレー好きですか?」
「はい。大好きです」
「よし。じゃあ今夜はこの鍋でカレーを作りましょう」
こうして結婚一日目は薫さんの手作りカレーを味わうことになった。
薫さんの作ったカレーは玉ねぎとひき肉と一緒にトマトが入っていて、他の野菜と一緒にトマトの旨味を存分に味わうことができた。
食後、お風呂に入ったあと、リビングに向かうと、薫さんがソファに座っていた。
「ちょっと話があるんです」
真剣な顔をしていたので、何事かと思ったら、薫さんは何かの用紙をわたしの前に置いた。
「これ、生命保険の申し込み用紙じゃないですか!」
「もし、ぼくに万が一のことがあったときのために保険に入っておいたほうがいいと思うんです」
「でも……」
わたしたちはあくまで契約結婚なのに、そこまでする必要があるのだろか。
「それから、ぼくがいなくなったら、すぐに緑川の家を出てください。あなたが背負う必要はありませんから」
「……はい」
最後に薫さんは数冊の通帳を提示した。その金額を見てわたしは腰が抜けそうになった。
「これはいつもはぼくの寝室の箪笥の下から三番目の引き出しに入っています。もしものときは使ってください。この白金のマンションも好きにしてくれて構いませんから」
わたしは驚きの連続で、会話が頭に入ってこなかった。やがてはっと我に返った。
「ちょっとまってください。わたしたちは契約結婚ですよね? もし本当に薫さんに何かあったとしても、こんなのいただけません!」
薫さんはふっと笑った。
「あなたは本当に真面目ですね」
薫さんは目を細めて柔らかく微笑んでいる。
「茶化さないでください! それに、薫さんがいなくなるとかそんな悲しいこと、新婚の夜に言われたくありません」
「ぼくがいなくなったら悲しいと思ってくれるんですね」
怒っているのに、逆に面白がられて頭にきた。
「とにかく、これらはいりませんし、わたしのために無駄なお金は使わないでください! ――おやすみなさい!」
わたしは不貞腐れたまま眠りについた。