紳士な御曹司の淫らなキス~契約妻なのに夫が完璧すぎて困っています
「えー、同窓会か。いいなー」
わたしの話を聞いた小沢さんがはしゃいだ声を上げた。
「何年ぶりに会うの?」
店長に訊かれ、わたしは答えた。
「八年ぶりです。そのあと幹事をやっている子が仕事で忙しくて来られたくなったんで、ずっとやってなかったんです。親しい子とは連絡を取り合ってるんですけど、いつの間にか疎遠になった子もいて、同窓会で会えたらなって思うんです」
そこで小沢さんがにやっと笑った。
「もしかして、中学のときに好きだった人とか来るんじゃないんですか?」
「……え?」
「あ、反応した。先輩、怪しい~!」
言われて始めて思い出す。そういえばあのころ、同じクラスに好きな人というか、初めて付き合った人がいたことを。しかし、それは甘い思い出ではなく、暗黒の歴史となっていた。幸い、前の同窓会のときに会うことはなかったので、今の今まですっかり忘れていた。
「緑川さんに言っちゃおうかな~。焦って先輩に会いに来るかも」
「え?」
絶対に知られたくないと思ってしまった。
ちなみに薫さんが室善をやめるとき、ヴォーグに挨拶に来ていた。二人とも残念がっていた。
「なんて冗談ですよ。結婚したからって遊んじゃいけない決まりなんてありませんからね。たまには自由を楽しんできてくださいね」
「……別にそういうつもりじゃ……」
「もう、小沢さんったら、野暮なことは言わないの。予約のお客さまがもうすぐ来るから準備して」
「はーい」
小沢さんははきはき答えながらも笑っていた。
*****
待ちに待った金曜日、わたしは昼の新幹線で静岡に帰った。薫さんが実家の両親のために用意してくれたたくさんのお土産を持っていた。懐かしの我が家に帰るとお母さんがわたしの好きな栗の炊き込みご飯を作って待っていてくれた。わたしがお土産を渡すと包みを開けたお母さんは歓声をあげた。
「まあ、カシミアのストールじゃない。緑川さん、いい趣味してるわね」
お父さん用にはお母さんと同じ柄のカシミアのマフラーが用意されていた。他にもお父さんが読書用に使える皮のカバーやお母さんの好きなチョコレート菓子が入っていた。薫さんの純粋な思いやりが心にしみた。
「新婚生活はどう?」
「順調だよ。薫さん、毎朝ごはん作ってくれるの。二人だけの時間を作りたいからだって」
「どうしてあんたが作らないの?」
「だって、薫さんのほうが料理上手なんだもん」
お母さんは「育て方を間違えた」とぼやくと、真面目な顔になって気づかわしげに言った。