紳士な御曹司の淫らなキス~契約妻なのに夫が完璧すぎて困っています
「あんた、今日、あんまりお酒飲んじゃだめよ」
「そりゃほどほどにしとくけど」
「だって、ほら、あんた結婚したんだし、万が一ってこともあるからね」
一拍置いて、お母さんが言いたいことを察した。要するに子供ができた場合の心配をしているのだ。顔に熱が集まる。お母さんの心配は杞憂にすぎなかった。そもそも寝室が別で子供ができるようなことはしていない。できるはずがないと言いたかったが言えるはずもない。わたしは素早く話題を変えた。
お父さんは仕事だったので、結局、家を出る前に会うことはできなかった。
同窓会の場所は、駅前の居酒屋だった。
十八時に開始予定だったので、時間より十分早く着くと、すでに見知った顔がちらほらあった。
「紫、久しぶり! 元気にしてた?」
「涼葉、久しぶりだね。子供は大丈夫なの?」
「ああ、平気。旦那の実家に預けてきたから。旦那の両親孫に激甘だから、好きなだけ楽しんできてって言われちゃった」
「わあ、そうなんだ」
涼葉とはいまだに年賀状のやり取りをしているので、結婚したことも子供がいることも知っていた。そのちょっとふっくらとした顔を見ると幸せそうで、ほっとした。
居酒屋の暖簾をくぐると、ナツとエッコの姿もあって驚いた。
「わあ、みんな久しぶり。もう来てたんだ!」
「早く飲みたかったからね。でも、紫が来れるとは思わなかった。東京に行ったって聞いたから」
「うん。東京で働いてるけど、ちょうど予定が空いてたから来たんだ。みんなの顔見たかったから!」
「何の仕事してるの?」
「ネイリストだよ」
エッコに訊かれて答えた。
「えー、すごい。カッコいい! その爪も自分でしたの?」
「うん、まあね」
わたしの爪は、重ね塗りしたジェルネイルの上にラインストーンを落としていた。今日のために特別頑張ったのだ。
「あれ、でも紫、音大に行ったんじゃなかった?」
ナツに訊かれて、苦笑する。
「それが就職したピアノ教室が潰れちゃってね。手に職をつけようと思って、ネイリストになったの」
「そっかー、大変だったね。てかうちの会社聞いてよ。社長が新入社員と不倫しててさー、もう環境やばいの」
ナツが泥沼の話を始めると、みんな面白そうに聞き入っていた。
気が付くと、居酒屋の大広間には二十人以上の人が集まり、思い出話に花を咲かせていた。
エッコが言った。
「実はわたし、結婚するだ」
「わあ、そうなんだ。おめでとう!」
「来月、式あげるから、時間がある人、来てね」
「うん」