紳士な御曹司の淫らなキス~契約妻なのに夫が完璧すぎて困っています
義母の襲来
「え、出張ですか?」
「はい。香港に三日ほど」
薫さんはいつもの笑顔で告げた。
寂しくなるな、と思った瞬間、急いでその思いをかき消した。わたしはずっと一人暮らしだったのだから、三日くらい一人でもへっちゃらのはずだ。
「ぼくがいない間、きちんとご飯を食べてくださいね」
「わかってますって。子供じゃないんだから!」
「食事は作り置きしているので、それを温めて食べてください」
さすがに過保護すぎると思った。
それに料理を作り置きするために、薫さんはまた睡眠時間を削ったはずだ。無理してないか心配になる。ふいに薫さんの視線がわたしの手に向けられた。
「なんで指輪しないんですか?」
「え?」
「結婚指輪」
「仕事中につけていると、施術がやりにくくて……」
まるで責められている心地がして、わたしは困惑した。
「じゃあ、仕事以外では指輪をつけておいてくださいね」
「わかりました」
薫さんはにっこり笑って出勤した。
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薫さんが出張に出かけた木曜日、わたしは休みだった。
いつもなら昼過ぎまで惰眠を貪っていたのに、今日はいつも薫さんがいつも出勤する時間に目を覚ましてしまった。そして、リビングに向かう自室の扉を開けた瞬間、家がいつもと違う空気に包まれていることに気づいた。そういえば、今日から薫さんがいないのだということを改めて思い出す。とたんに、心にぽっかりと穴が開いたような感傷的な心境になった。
たった三日いないだけなのに、とても長く感じた。
部屋に戻って自分のネイルをオフし終えたとき、インターホンが鳴った。誰だろうと思っていると、再びインターホンが鳴る。わたしはリビングに戻って、ドアホンを見ると、いっきに眠気が覚めた。画面の向こう側に薫さんのお母さんが立っていたからだ。
急いでオートロックを解除すると、わたしは二階に上がって手早く着替えた。けれど、化粧は間に合わなくて、スッピンのまま薫さんのお母さん――響子さんと対面する羽目になった。