紳士な御曹司の淫らなキス~契約妻なのに夫が完璧すぎて困っています
「まったく、こんな時間まで寝ているなんてとんでもないぐうたら嫁ね」
響子さんは開口一番嫌味を言った。寝ていたわけではないのだが、反論すると火に油を注ぎそうなので黙った。
「薫がいないからって、怠けないでちょうだい。まったく非常識な……」
それならアポなしで押しかけるほうがよほど非常識だと言いたかったけど我慢した。
「それで、薫はいつ帰ってくるのかしら」
「出張に行ってます。明後日まで戻りません」
がっかりすると思いきや、響子さんはどこか安心した様子で「そう」とだけ答えた。
響子さんは持っていた荷物を下ろした。よくみるとボストンバッグにキャリーケースまで持っている。
「なんですか、これ」
「わたしの荷物よ。今からあなたをお茶会に連れて行ってあげます。さあ、今すぐこれに着替えてちょうだい」
響子さんはボストンバッグからたとう紙に包まれた着物を取り出すので、わたしは目を丸くした。驚いたけど断れる雰囲気ではない。わたしは渋々受け取った。
「……わかりました」
わたしは着物を持って自分の部屋へと戻った。響子さんが持ってきたのは色無地一つ紋の着物だった。わたしはため息をつくと、服を脱いで襦袢を手にした。十分後、帯を二重太鼓にして部屋から出ると響子さんは目をむいた。
「……あなた着付けができたの?」
「はい。学生のときに習いました」
「ふ、ふーん。そう」
わたしは苦笑した。おそらく響子さんはわたしに着付けなど無理だと思っていたのだろう。嫁いびりをしようと思ってきたのに、わたしが着付けができたので、肩透かしをくらった顔をしている。
「まあ、いいわ。さあ、行きましょう」
マンションから出ると、すぐ正面に響子さんが頼んだハイヤーが待っていた。響子さんは運転手に行き先を指示すると、わたしに言った。
「今日のお茶会は一ツ橋艶子様主催で、それは名家の奥様なのよ。もちろんそれなりの家の方々もお呼ばれしています。緑川家の嫁たるもの、こういう場にも慣れてもらわないと困るわ」
「……はい」
身が引き締まる心地がした。