紳士な御曹司の淫らなキス~契約妻なのに夫が完璧すぎて困っています
本当に好きな人
エッコの結婚式の日わたしはおめかしをした。涼葉の式でも着た水色のパーティードレスを身に着けていた。
「よく似合ってますよ」
薫さんが褒めてくれた。
「じゃあ、行ってきます」
エッコの結婚式は東京で催されることになっていた。旦那さんになる人が東京に転勤する予定だからだそうだ。ラインでその知らせを聞き、「落ち着いたら、絶対に、東京で会おうね」と約束していた。
わたしは受付でご祝儀を渡して会場の中に入った。ちなみに挙式は海外で身内だけで済ませたそうで、今日は披露宴のみの参加となる。
「紫、また会えたね!」
涼葉もお呼ばれしていて、わたしに声をかけてきた。すぐにナツもやってくる。
「まさか、このメンバーで東京で会うことができるなんてね。あ、紫、東京案内してよ」
「うん、いいよ」
「ねえ、みんなどこ行きたい?」
わいわいと騒いでいると、胸糞悪い声が聞こえてきた。
「お、紫じゃん」
まさかの佐原の登場に、わたしはげんなりする。
「なんでこんなところであんたと会うの?」
「俺も呼ばれたんだよ」
そこでナツが耳打ちする。
「……佐原がどうしても紫に会いたいから、参加させてほしいって頼んだらしいよ。紫的にはどうなの?」
「ありえない。わたし、もう他に好きな人いるって言ったんだけどね」
「え、紫、好きな人いたの?」
「……うん」
「この間、いい出会いがないっていってたくせにー」
「ちょっと言いにくい事情があってさ」
まさかその好きな人と契約結婚しているなんて言えない。
「とにかく佐原だけは本当にありえないから」
涼葉が小声で言った。
「そっか。まあそうだよね。紫、昔から男運あんまりよくなかったもんね。この間、佐原しつこかったしね」
わたしの高校と大学時代の恋愛事情を知る涼葉は同情してくれた。
本当になんでわたしなんかを狙っているのか謎すぎる。変な商売の勧誘じゃないといいんだけどと思った。
すると今度はナツが言った。
「佐原、この間、紫といい感じになったみたいなこと、周囲に言いまくってたよ」
「えー! とにかくありえないから」
「なんで? 佐原かっこいいじゃん」
ナツがもったいなさそうに言った。
「どこが? わたしの好きな人、佐原よりずっとかっこいいんだけど」
「え、この間はいい人なんていないって言ってたじゃない。どんな人なの?」
涼葉とナツに訊かれたけど、様々な事情が頭を駆け巡り、口を割れなかった。
小声で涼葉が言った。
「紫、気をつけなよ。佐原、絶対に紫のこと狙ってるから」
わたしは頷いた。まもなく披露宴が始まるというので、会場に入った。
ちらりと周囲を見回すと佐原が左隣のテーブルに座っていて、げんなりした。
式の途中、お手洗いに立つと佐原が追いかけてきたので、振り切るように走った。しかしピンヒールを履いていたので、途中で転んでしまう。
「お前何やってるんだよ」
佐原が差し出してくる手をわたしは振り払った。
「近寄らないで」
わたしはお手洗いに駆け込むと、用を済ませ、反対側の出口から出て、席に戻った。