紳士な御曹司の淫らなキス~契約妻なのに夫が完璧すぎて困っています
披露宴は無事に終わり、ブーケトスの時間になった。
ナツに誘われて、わたしはブーケを待つ輪の中に入った。
ウェディングドレス姿のエッコが後ろを向いてブーケを投げた。それは大勢の参加者の頭上を通り過ぎて、わたしの頭に当たって手の中に落ちてきた。
「わあ、おめでとう。次は紫の番だね」
「……うん」
このブーケが薫さんとの縁を繋いでくれたらいいのにと思った。
外に出るとすでに日は暮れていた。ナツと涼葉は明日東京観光するらしく、その話題で盛り上がっていた。わたしも話題に加わっていたとき、声をかけられた。
「紫、一緒に帰ろう」
佐原だった。
「だから、あんたとどうこうなるつもりはないんだってば」
横を付いて歩きだしたので、ナツと涼葉を置いてわたしは走り出した。
「待てよ、紫!」
佐原が追いかけてくる。わたしを落とせなくて、佐原や完全に意地になっているのだと思った。でなければ、こんなにしつこい真似はしないだろう。大通りまで走ってタクシーを拾おうとすると、途中の道で無理やり腕を捻られる。
「放してよ!」
拘束から逃れようとしたとき、頤を掴まれた。
息する間もなく、佐原の唇が、わたしの呼吸を塞いだ。
次の瞬間、背筋がぞっと寒くなる。
薫さんに触れられたときは、歓喜にわいた身体が、全身で佐原を拒絶している。どうにか逃げようとするが、強く抱き寄せられていて、かなわなかった。
「やっ!」
叫んだ、次の瞬間、佐原の身体が離れた。
がつんと音がして、佐原は地面を転がった。
わたしを守るようにして前に立った人物を見て驚いた。
「薫さん⁉」
なぜ彼がこの場にいるのかと混乱した。頬を殴られた佐原が薫に突っかかる。
「てめえ、何するんだよ!」
「それはこっちの台詞です。人の妻に手を出すとはいい度胸ですね」
「は、妻? ……紫、お前、結婚してたのか?」
わたしが頷くと佐原は呆然としている。
「そういうことなら早く言えよ!」
佐原は自分より格上の男が来たと本能的に悟ったのだろう。
劣勢を感じ、立ち上がった佐原の背中が夜の闇に消えていった。
「薫さん、どうして……」
「どうせまた変な男に言い寄られているんじゃないかと思って気になったんです」
今度はさすがに反論できなかった。