紳士な御曹司の淫らなキス~契約妻なのに夫が完璧すぎて困っています
そうこうしているうちに、パーティー当日を迎えた。
この日は土曜日だったけど、早番にしてもらったので、六時半にはホテルに着くことができた。指定された部屋に向かうと、すでにブラックスーツに着替えた薫さんが待っていた。
「これに着替えてください」
わたしはパールピンクのパーティードレスを手渡された。
二間続きの部屋の奥に入るとわたしはなんとかドレスを身につけた。
着替えを済ませると待機していたメイクアップアーティストの手で化粧が施された。基本、ナチュラルメイクのわたしは、濃い化粧品の香りにどぎまぎした。
支度を終えると、最後に薫さんがわたしの首にネックレスをつけてくれた。それはピンクダイヤのネックレスだった。
「とてもきれいです。よく似合ってますよ」
わたしは恥ずかしくなって、顔を俯けた。
「あ、ありがとうございます」
「さあ、行きましょう」
薫さんがわたしの手を取って歩き始めた。
パーティー会場となる大広間は、たくさんの人であふれていた。ボーイが飲み物をもってあちこちを行きかっている。先を歩いていた薫さんがボーイから飲み物をひとつ取り上げた。
「ライチソルトです。紫さん、好きでしょう?」
「ありがとうございます」
エスコートされてどこかのお嬢様になったみたいで、なんだか心地よかった。ライチソルトを口にすると、腹の底がアルコールのせいで熱くなって、強張っていた肩から力が抜けた。
「薫くんじゃないか」
声をかけてきたのは、中年の男性だった。
「鷺沼さん、こんばんは」
「ようやく薫くんも表舞台に出るようになったんだね。ようやくお父さんのあとを継ぐ決心がついたんだね。こちらとしては嬉しいよ。――ところでこちらの女性は?」
わたしは軽くお辞儀すると名乗った。
「初めまして、妻の緑川紫です。よろしくお願いします」
「ほう、こりゃまた可愛い奥さんじゃないか。大切にしないとダメだよ」
そう言って男性は薫さんの肩を叩いて去っていった。
「今のは?」
小声で尋ねると、大手食品会社の社長だと言われた。
「紫さんの好きなチョコレートを作っている会社ですよ」
「そうなんですか。すごいですね」
緊張のあまりすごく喉の乾いたわたしは、ライチソルトをいっきに飲み干した。
「……紫さん、酔っぱらわないでくださいね」
「わかってますよ」