紳士な御曹司の淫らなキス~契約妻なのに夫が完璧すぎて困っています
「今度からそういう大切なことは前もって言ってください」
「——わかりました」
薫さんの指が優しくわたしの髪を梳いた。
そのときだった。
「薫?」
十和子さんが目を覚ました。しかし、わたしの姿を見つけると十和子さんが睨みつける。
「薫に近づかないで! 薫はわたしのものよ!」
「バカなことを言わないでください。薫さんはものじゃありませんよ!」
興奮した十和子さんがうっとお腹を押さえてベッドの上に丸まった。十和子さんの額には汗が流れている。
「十和子さん、大丈夫ですか?」
わたしが駆け寄ると、十和子さんはわたしの手を振り払った。
「……触ら、ないで……」
余程苦しいのか憎々しげにわたしを睨みながらも、拒絶する声は弱々しかった。その異様な姿にわたしは焦った。
「薫さん、救急車を呼んでください!」
「え、あ、はい」
薫さんが急いで救急車を呼んだ。
十和子さんは、近くの総合病院に搬送された。看護師の手で病衣に着替えさせてもらった十和子さんは、今は安らかに眠っている。
ベッドで眠る十和子さんを見守っていると、薫さんが戻ってきた。
「どうでしたか?」
「ダメです。十和子の両親は来ません」
薫さんは十和子さんの両親に入院を知らせるために連絡を取りに行っていたのだ。
「どうして?」
「ぼくとの婚約を破棄したときに、親に勘当されているんです……」
「でもだからってこんなときに」
そこへ医師が部屋に入ってきた。
「お二人は高藤さんとどういうご関係ですか?」
わたしと顔を見合わせた薫さんはこう言った。
「ぼくたちは彼女の親戚です」
間違ってはいないはずだ。薫さんは十和子さんの遠縁で、わたしは薫さんの妻なのだから。
「他にお身内は?」
「……いません」
医師はわたしと薫さんを交互に見ると、説明しだした。
「高藤さんの腹痛は、切迫流産によるものだったことがわかりました。幸い子宮口も閉じていますし、赤ちゃんの心拍も確認できていますので、今は落ち着いています」
薫さんは目を丸くした。
「流産? つまり十和子は妊娠しているんですか?」
「うちの病院に通院歴がありました。現在、妊娠十一週目です。……念のため、二、三日の入院になりますので事務手続きは、明日以降お願いします」
それだけ言うと、医師は部屋から出ていった。