宵闇の光
女絡みとまで気づいているはずの二人が立ち入ったことを尋ねてこないのは、アディのそういう努力を察して、尊重してくれているからなのだ。常に気には止めながらも、彼らはその件については追及してこなかった。今もそうで、ラグニードはしばらくこちらの沈黙に付き合った後、ごく何気ない調子で口を開いた。
「さてと、さっさと戻らないと夕飯食いっぱぐれるな。支度手伝わないとうるさいからな、アルドは」
同じ宿舎で、炊事関係を仕切っている後輩団員の名を挙げ、ラグニードは笑う。こういった彼らの気遣いを、有難いと今は素直に思っていた。
ボロムに呼び出されたのは、その数日後のことである。今度はラグニードと二人で来るようにと言われたため、訓練を終えたその足で、連れ立ってボロムの家へと向かった。
「仕事が来てる」
開口一番にそう言われ、隣に座ったラグニードと思わず、しばし顔を見合わせる。
見習いの訓練期間が終わり近いとはいえ、この時期に二人とも仕事で外に出ることは、これまでになかったからだ。
「今日明日の話じゃねえんだが、先方が腕の立つ奴を確保しときたいってことでな。必要な時が来たらすぐに呼ぶって話だから、そのつもりで備えだけはやっといてもらいたいんだが」
その説明にある程度は納得がいったが、ボロムの口調はどこか歯切れが悪く聞こえた。何か引っかかることのある依頼なのだろうか──そう感じた依頼を彼が引き受けることは普段はないはずだが、
「何か、裏のある話なんですか」
同じことを察したらしいラグニードが、遠慮なく率直に尋ねた。図星を指されて、ボロムは一瞬苦虫を潰したように口元を歪める。そしてため息の後に頷いた。
「……できれば請けずにいたかったんだが、そうもいかなくてな」
「どこからの依頼ですか? 親父さんがそんなこと言うなんて」
「コルゼラウデのある筋から──どうした?」
「いえ、別に」
その国の名前に、自分でも意外なほど反応した。思わず立ち上がりかけ、椅子で小さからぬ音を立ててしまった。
国王の容態がいよいよ危ないと噂される中、未だ後継者の決定には至っておらず、混迷の色を深めている国──フィリカが今でも暮らしている国。
瞬時に湧き上がってくる思いを抑え、努めて冷静に座り直した。他の二人がまだいくぶん訝しげな目を向けるのを感じつつも、ボロムに話の続きを促すと、彼は少しの間を置いて再び口を開いた。
曰く、どうしても断れない筋からなのだという。傭兵団を立ち上げたばかりの頃、やむを得ず借りを作る経緯があったため、その見返りとして、相手が依頼してきた時には時期と内容に関係なく引き受ける、と約束していたのだそうだ。