宵闇の光
「ああ、王宮の牢番やってる奴をやっと見つけられた」
牢番の単語を出すと同時に、机の上に置かれているアディの手、その指先が一瞬動いた。
「……それで」
「酒飲み話のついでのふりして聞いたところによると、王子派の主だった奴らはほとんど、秘密裏に処分されたらしいんだが──何人かはまだ、刑の決定を待ってる最中だそうだ」
そこで言葉を切る。アディは、口は引き結んだまま、視線で先を促してきた。眼差しの必死さに、心の中でため息をつきながらも話を続ける。
「運良くそいつは、その中に女が混じってることを覚えてて、状況もよく知ってた。とんでもなく綺麗な女の兵士で、王子派と通じてた疑いをかけられてるって説明だったから、間違いないと思う」
「──そうか」
と言ったきり、アディは黙り込んだ。与えられた痛みを堪えるように、歯を食いしばった表情で俯いている。机に置かれた手は今や強く握り締められ、震えていた。
声をかけるのも憚られる雰囲気を感じながら、
「……なあ。これからどうする気だ」
聞くまでもないかとは思ったが、それでも聞いてみる。案の定、微塵もためらいを見せずに、アディは答えた。
「彼女を助ける」
「本気か?」
「当たり前だ」
睨みつけるように見られて、ラグニードは少しの間身の縮まる思いがした。アディが真剣に怒る場合は、十数年の付き合いの中でも数えるほどの回数しか知らず、見慣れていないだけに怖い。今この時、アディが怒っている対象は主に自分自身なのだろうが、それで安心はできなかった。……あの夜、頼むと言われながらラグニードが女の傍を離れてしまったのは事実だったから。
王女を依頼人の元へ連れていく、もしそれに支障があれば始末すること。どちらにせよ、王女の身柄を確保しなければならないのが依頼の内容だった。
忍び込んだ屋敷は偶然、アディが一年近く前に請けた仕事の依頼人である貴族の持ち物だった。内部のことを多少なりとも知っているアディが様子を見にいったのは当然だったが、女兵士のことも放っておけない故に、ラグニードに任せたのだろう。
だが、一人で行かせることはやはり気になってしまった。覚醒する様子のない女兵士と、アディが駆けていった方向を交互に見ながらしばし逡巡し、結局は後者を選んだ。
あまり間を置かずに追ったつもりだったが、相手は思った以上に先へ行っていて、しかも途中で迷ってしまったため、追いついたのはかなり屋敷の奥でだった──アディが、明らかに王女とその付き人たちと思われる数人の男女を、間近にしていながら見逃すところに行き会った。